すべてのビジネスがメディアになる未来、企業はどう発信するのか
"個人も法人も、ひとしく「クリエイター」" と社内外で発信してきたnoteのCEO、加藤貞顕。
その言葉どおり、noteの成長(月間アクティブユーザー数は2020年3月時点で4,400万)とともに、企業からは法人向けサービスnote pro への問い合わせも増えています。
企業がなぜ情報発信をする必要があるのか。何をどう発信すればよいのか。今回の「#noteのみんな」では、note proを中心に事業開発を担う佐々木望さんも交えて、実際の事例を挙げながら、これからの企業の発信のあり方をインタビューしました。
ほとんどすべてのビジネスがデジタルメディア化する
加藤:さっそくですが、ぼくは「ほとんどすべてのビジネスがデジタルメディア化する」と思っているんです。たとえば、新聞や雑誌などはすでにデジタルに移っていっていますし、テレビなどほかのメディアも、これからどんどんデジタルメディアになっていくでしょう。
そして、この流れはメディア企業だけではないんです。
たとえば、金融業界で言うと、これまで街の銀行の支店で行なっていたことがパソコンやスマホで簡単にできるようになった。おそらくこれから、街に銀行の支店はなくなっていきますよね。つまり、金融はウェブサービスになるんです。そこには、金融機能だけでなく、お金にまつわる情報も掲載される。デジタルメディアになるわけです。
ほかの業界でも、物理的に代替できないもの以外、ほとんどのビジネスがデジタルメディア化していくと思っています。
加藤 貞顕:CEO/アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。2011年に株式会社ピースオブケイク(現、note株式会社)を設立。
加藤:もうひとつ、ほとんどのビジネスがデジタルメディア化するその先で、必要になるのがブランド化だと思うんです。
ーどういうことでしょうか?
加藤:たとえば、数多くある掃除機の中から、値段は倍以上のダイソンが選ばれる理由を考えるとわかりやすいと思います。性能がよくて、デザインがいいのはもちろんですが、創業者のこだわりや会社の成り立ちなどのストーリーを発信してメディア化し、その結果、ブランド化したことでダイソンは選ばれているわけですよね。
佐々木:ダイソンはブランドとしてストーリーを持っていて、メディアを通じてそれを浸透させていますよね。
佐々木 望:2005年、慶應義塾大学経済学部卒。大手旅行会社で法人営業として勤務後、2006年にオールアバウトに入社。広告営業、マーケティング、商品企画を経験する。2019年12月より現職。note proチームのリーダーとして、法人向けサービスの拡充を担っている。
加藤:現代社会って、たぶん史上初めて、ほしいものがなくなった時代だと思うんです。ぼくはよく年初に、社員に「去年買っていちばんよかったものは?」みたいな質問をするんです。でも、みんなパッと出てこないんですよね。それで「スマホ、ですかね」みたいな答えになる。
佐々木:わかります。すごくほしいものもないから、買ったものも印象に残っていないんですよね。
加藤:そうなんですよ。いま、みんながほしいものって、そんなになくなっていますよね。そういう時代だから、新しいものを作って売るためには、ものすごく差別化する必要があります。そのために、企業や商品をメディア化して、顧客にストーリーを伝え、ブランドとなっていくやりかたが有力になってきている。
逆に、それをしないとどうなるかというと、ネットストアの検索でみつかる一商品になっちゃうんですよ。そうなると、価格とスペックだけで競争することになって、結果、利益がなくなってしまう。
佐々木:はい。ぼくもずっとマーケティングの仕事をしてきて、実感しています。
加藤:価格やスペックで比較され続けるのか、作り手の思いを伝えてブランドになるのか。Appleとかダイソンがやってるのは、後者ですよね。もちろんどちらのやりかたもアリなんですけど、ぼくはせっかくモノやサービスを作って売るなら、後者のほうがいいと思うんですよね。
たいせつなのはだれが担うかと、なんのためにやるか
ーでは、企業がメディア化、ブランド化する上で、企業の情報発信のポイントはありますか?
佐々木:まずは、だれがメディア運営を担うかでしょうか。ぼくはメディア運営の担い手も、事業の本流をつくっているひとでなければならないと思っています。
これまでのオウンドメディアやコンテンツマーケティングでは、広報部・宣伝部だけが担ったり、代理店にまるっとお願いしたりというケースも多かったと思います。
するとどうしても、わかりやすい指標としてページビュー(以下、PV)がメインの指標、つまりKPIに置かれ、広告などを打って大量にリーチすることが目的となってしまいがちです。本来の目的は「届けたいひとにきちんとブランドを伝えること」であるにもかかわらず。
ブランド化していくのであれば、一つの部署や外部に丸投げするのではなく、事業部や全社をあげて取り組んでいく必要があります。トップが関わることも重要ですね。
加藤:まさにAppleはスティーブ・ジョブズが商品のプレゼンをしていましたよね。代理店や宣伝部が新商品を発表するのと、CEO自らがプレゼンするのと、どちらが説得力があって、どちらがブランド力が高まるかを考えれば、明らかに後者じゃないでしょうか。
佐々木:Teslaの商品発表やTOYOTAのトヨタイムズも社長が前面に出ていますもんね。
加藤:やっぱり、トップも含めみんなで当事者意識を持って、メッセージをちゃんと考えて発信する必要があると思います。noteでもたとえば、IKEUCHI ORGANICさんは、社長自らnote勉強会に来てくださって、会社がメッセージを発信することに対しての理解も深いんです。
ー全社を挙げて取り組んでいる企業は、ほかにどんなところがありますか?
佐々木:そうですね。たとえば、早川書房さんは編集者全員が自分が担当した書籍を売り込むために自由に投稿できる体制で、校閲は記事が出てから読んだ社員が指摘するかたちで行っています。Zaimさんも編集のルールを決めたうえで、社員のみなさんで記事を書いています。
やっぱり、全社をあげて主体的に発信している企業が、情報を届けたいひとに届けられるメディアづくりに成功していますね。
ーほかにも、メディア運営のポイントがあれば教えてください。
加藤:メディアの運営は、何を指標にすればいいのかという質問がありますね。PVが増えればいいのかというと、ちょっとちがう気もする。
佐々木:目的によって指標は変わりますよね。PV数よりも、コメントをくれるひと、採用募集に応募してくれるひとなど、コミュニケーションの深さと質を重視した方がいい場合が多いでしょう。
佐々木:note proの話で言うと、ぼくらは企業とセットアップのミーティングをしていて、そこで必ず、目的と運用体制、更新頻度のすり合わせをします。とくに、だれに何をどう伝えたいかということを重視しているんですね。目的が曖昧だと、指標もPVになりがちで、継続が難しくなってしまいますから。
まず最初に、自己紹介とか、所信表明的な文章を書いてもらうことをオススメしています。最初に目的を書いておくと、何度も立ち戻ることができるし、ここがどういう場所かお客さまにもよく伝わります。
個人も企業も、ひとしく「クリエイター」
ー全社を挙げて取り組むことと目的を明確にすることがたいせつなんですね。では、企業はどんなふうに発信すべきなのでしょうか。
佐々木:社内のひとが自分自身の言葉で書くことがたいせつだと感じています。ぼくは「ひと感」と呼んでいるのですが……笑 会社員であっても自分の意見を発信したいひとは増えていますし、個人がメディアになる時代でもありますから。会社名ではなくて、だれが言っているのか、なかの人の顔が見えるnoteは好感が持てますよね。
加藤:たしかに、上司に確認を繰り返して個性が薄れてしまうのはもったいないです。恐れずに個人の意見として公開した方がおもしろいコンテンツになる確率が高いですよね。
ー発信を続けていると、何を書けばいいんだろうと迷ってしまうこともありそうです。
佐々木:その点は、いろんな工夫ができますよ。noteにはすでに書き手が集まっているので、企業と個人の連携でいいコンテンツが生まれることがあります。たとえば、キリンビールさんはクリエイターとのコラボ企画や投稿コンテストを実施したり、ピックアップしてマガジンにまとめたり、noteのクリエイターを巻き込んでコンテンツをつくっています。
社員それぞれが個人のアカウントで書いた、会社や仕事に関する記事をマガジンとしてまとめることもできます。
ーnoteでは個人と企業がフラットな関係になっているんですね。
加藤:そうですね。noteでは、個人も企業も、ひとしく「クリエイター」として捉えています。決して「きれいごと」ではなくて。たとえば、Appleという会社って、企業というよりもクリエイターと考えたほうがすっきりしませんか。もちろんスティーブ・ジョブズもクリエイターで、昔で言うロックスターに近い存在だと思います。
メッセージを商品やサービスに込めて世の中に発信する企業は、本来クリエイターなんです。日本でも、ホンダとかソニーとか、そうでしたよね。
だから、ぼくたちはクリエイターであるすべての企業が、情報発信の拠点としてnoteを使う未来を描いています。つまり、ビジネスのメディア化、ブランド化において、noteはインフラになるということです。
佐々木:企業は事業を通じて実現したいこと、やるべきことがあるのだから、メディア運営のためにウェブ構築や運用、保守に力を注ぐのは本筋ではありません。宣伝みたいになってしまいますが、noteを使ってすばやくはじめてみるのがいいんじゃないかな。
ーーありがとうございました!
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Text by 徳 瑠里香、Photo by 関矢 瑞季