PMとマーケターは補いあう存在。大プロジェクトを進める連携方法とは
プロダクトを成長させるには、何が大切でしょうか?この問いに対する答えは多岐にわたりますが、プロダクト開発を担うPMやマーケティングなどの立場が連携し、短期・中長期的に施策を進めていくことは重要な要素のひとつです。
しかし、職種によって知識や視点は異なるため、同じプロダクトに対しても、意見が食い違うケースがあります。そんなときに、頭を悩ませる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、note社でPMを務める浅子拓耶さんと、マーケティングを担当する廣崎圭さんにインタビュー。PMとマーケティングの連携方法や、それぞれの役割で大切にしているポイントについて、実際のリリース事例を交えながらお話を聞きました。
“目標数値の達成”を大前提に、密なコミュニケーションで施策を練る
──早速ですが、お二人はどのように連携していますか?
廣崎 私が所属するマーケティング&コミュニケーショングループ(以下、マーコム)では、GMVおよび、それに紐づく目標数値があります。マーコムとPMが所属するプロダクト開発チームは、一緒にその目標達成を目指す体制です。そのなかで私と浅子さんは、1年程前から連携を進めています。
廣崎圭/マーケター
EC・IT業界を中心に、マーケティング・データ分析・事業企画として従事。GMOペパボ㈱が運営する「minne」のマネージャーを経て、2022年6月にnoteへ入社。現在はPMMとして、サービスグロースに向けてマーケティング施策を担当。
浅子 “目標数値の達成”を大前提に据えて、密に連携しながら具体的な施策を検討していますよね。事業戦略やプロダクト戦略を考慮しながら、期ごとに「どんなことを実現していきたいか」を決めていく流れです。
「GMVを前年比n%成長させる」という大目標をストレッチめに掲げているため、「パッと思いつく施策・地道な施策を積み上げれば目標達成できる」という状態ではなく、より大きくGMV向上に貢献する施策を考え、実行しつづける必要があります。
そのためPM・マーケ双方から、ざっくりしたアイデア段階の案を持ちより、どれくらいのインパクトが見込めそうか・どれくらいの期間で実現可能か・そもそも実現可能かなどを複合的な視点でディスカッションしています。
浅子拓耶/PM(プロダクトマネージャー)
動画合成エンジンのPjM・ディレクターや、Web、モバイルアプリのオフショア受託開発でのスクラムマスター、AdobeでのPjMなどを経て、2020年10月にnoteに入社。現在はPMとして、クリエイターが創作をつづけるための施策を担当。note / X
──それぞれの立場から意見を出すと、違ったアイデアが出てくるものですか?
浅子 似たようなアイデアに落ち着くことも多いですが、アイデアの性質が異なることはあります。
一般的にプロダクト開発では、中長期的に成果が出る施策のほうが相性がいいんです。たとえばGMV向上のために、noteのホーム画面をカイゼンしたとしても、翌日から急にGMVが伸びることはありません。
とくに、noteは10年以上運営しているサービスなので、ひとつの施策で大きく特定の数値をあげることがむずかしくなってきています。そのためPMは、出てきたアイデアを常に「中長期的にリターンが積み上がるアイデアに昇華できないか?」などと、考える傾向にあります。
ですが、短期的に成果をあげていくこともやはり欠かせません。そんなときは、どうしてもプロダクト開発以外、つまりマーケティング観点のアイデアが必要になってきます。
──なるほど。成果の出る期間が異なるからこそ、お互いのアイデアが重要だと。
廣崎 やはり「継続的に施策の効果が出るのか」という観点では、プロダクト領域の発想が肝ですが、一方でnoteはいま、短期的なトライアルをどんどん繰り返すべき事業フェーズでもあります。
なぜなら、noteはこれまで「インターネットの記事にお金を払って読む」「著名人だけでなく、一般のひとのコンテンツを購入する」という新しい文化を生み、そのためにクリエイターが安心してつかえるプラットフォームづくりに注力してきました。それらの土壌がととのい、ここ数年でようやくクリエイターが記事を販売しやすい体験設計や機能の追加にリソースを割けるようになっています。
そのため「記事が販売されていることを認知してもらい、いかに読者の購入を促すか」という課題は、noteにとってチャレンジをはじめたばかりの領域です。
noteは、ほかのサービスと比べて性質やユーザーの行動パターンが異なるため、単純に他社を参考にしただけでは効果が見込めません。「どういったアプローチがよいか」を見極め、すばやく大きな成果をあげるためには、次々と施策を行っていく必要が出てきます。これらの背景から、PMとマーケの両者のアイデアはお互いに欠かせないと感じますね。
──実際にお二人は普段どのようにコミュニケーションを取っていますか?
廣崎 基本的には定例ミーティングや、必要に応じたプロジェクトごとの定例などで、密にコミュニケーションを取っています。定例は週1回ペースで、主要数値の予実・変化・要因や、各チームの施策の状況を共有・相談していますね。
私の場合は、数字的な根拠をもとに施策を提案しがちなのですが、浅子さんはざっくばらんに「こんなのどうですかね」とアイデアを出してくれることが多いです。noteのバリューのひとつ「すばやく試そう」に通ずる部分だなと感じます。
浅子 数値的な根拠を考え込みすぎず、あえて早めに提案することを意識しています。たとえば自分で数字の検証に2週間費やしたあとに、体験設計の検討フェーズで話が頓挫したら、検証に充てた2週間がもったいないなと。なので、数値的な検証はプロであるマーケに任せて、並行して体験設計を詰めるようにしています。
社員一丸で取り組んだプロジェクト「noteポイント」
──ここからは二人が連携した施策について、具体的に教えてください。
廣崎 今年1月に「noteポイント」という機能をリリースしました。noteポイントは、有料記事の購入に充てられるポイント機能です。1月はWebブラウザで、4月にはnoteアプリでのリリースが完了しています。
──なぜnoteポイントのリリースに至ったのでしょうか?
浅子 これまでnoteアプリからはコンテンツの購入ができず、販売するクリエイターにとって機会損失になると考えていたんです。そのためアプリからも購入できるようにして、note内での購買を促し、クリエイターの収益化を後押ししたいという想いがありました。
ですが、ただ購入できるようにするだけでなく、これまでnoteが実現しきれていなかった「プラットフォームとして、クリエイターの販促支援をする機能をつくりたい」と考え、noteポイントの導入を決断しました。
──noteポイントの施策に決まる前にかなりの紆余曲折があったとか?
浅子 そうですね。アプリから購入できるようにする構想はかなり前からありましたが、具体的にどんな設計にしていくかを固めたのは、2023年9月頃から。ポイント制がいいのか、はたまたクーポンのようなものはどうなのか。ポイント以外の施策もあわせて検討しつつ、クリエイターの体験設計を重視して、最終的な機能に着地しました。
廣崎 noteポイントならばキャンペーンなどで、読者にポイントを還元でき、そのポイントで別のコンテンツもたのしんでもらうという循環もつくり出せます。これらの体験は、割引以上の価値を生み出せると思いましたし、何より「クリエイターの継続的な収益化」という目的を果たせると感じました。
浅子 ちなみにポイント機能は、note側がクリエイターの販促を支援をする施策として取り組んでいましたが、ほかにも、今年8月にクリエイターがみずから販促をする手段として、有料記事(単発)のタイムセールという機能もリリースしています。これらの施策をあわせて、「クリエイターの収益化」につなげられるような設計です。
──先ほど「noteポイントのキャンペーン」と、話していましたが、具体的にはどのような内容ですか?
浅子 Webブラウザとアプリのポイント機能のリリースにあわせて、2024年1月と4月の2回、販促キャンペーンを実施しました。
1月のキャンペーンでは、クリエイターの購買欲が高まるような要件で、ポイントを付与をすることが最優先事項だったんです。結果的に、noteで有料記事を購入したユーザーに、購入金額の最大20%分をnoteポイント(※1)としてお返しするといった内容になりました。
※1:本キャンペーンで付与されるnoteポイントは、有効期間が限定されたポイント。
1月の効果を踏まえ、4月のキャンペーンではポイントの付与条件を変えています。内容としては「10万人に最大1万ポイントが当たるキャンペーン」で、事前エントリー式の抽選方法にしたんです。すると、前回よりもさらに収益化面での効果が表れました。
廣崎 今後のキャンペーン設計に向けて、4月はポイントの利用状況やROI(費用対効果)をより正確に判断できる材料を集めたいと考えていました。事前にさまざまなシミュレーションを行い、ターゲット層やポイントの付与率など、多くの条件を検討しました。ポイントの使用条件を含めたキャンペーン設計を見直しながら、購入を最大化する方法を探った感じです。
浅子 数値面だけでなく、「どのようにポイントを付与したら、ユーザーは行動を起こすか」という体験設計も慎重に考えました。マーケ、プロダクトとも、中長期を見据えて動いていましたが、具体的な施策案を詰めていく過程で「キャンペーン単体のROI」にフォーカスしてしまい、施策実施後にユーザー体験が成立しないような設計案もあったんです。
ほかにも予算を抑えるために「母集団を絞りたいから、ポイント付与の対象ユーザーにこんな条件を追加したらどうか?」などのアイデアが出ましたが、「ユーザーはなぜ自分にポイントが付与されたのか」がわからないと、購買にも繋がりにくいのではという議論もありました。そこでいろんな要件を並べて「これは優先順位が高い」「これは大切だけど、いまやるべきことではない」など、あらゆる判断を下しながら、やるべきことを絞っていきましたね。
──ちなみにnoteポイントをリリースして、社外の反響はどうでしたか?
浅子 「ポイントをもらったから記事を買った」といった声もあり、「きっかけがあれば行動が変わるひとがいる」ということを肌で感じることができました。わりと世の中のサービスでは当たり前かもしれませんが、noteでも同じことが言えるんだなとわかってうれしかったです。
廣崎 ユーザーの「買ってみようかな」という気持ちをつくれた事が素直にうれしかったです。クリエイター側もポイントキャンペーンをきっかけに、「売ってみよう」と挑戦の機会や宣伝をしてくれている様子も見受けられたので、みなさんの行動を促すきっかけになったんだなと思います。
──ポイント機能のリリースから半年が経ちました。今後の展望や検討していることはありますか?
廣崎 2回のキャンペーンを通して、さらなるポイント施策を検討中です。
今後も「だれに、どんなタイミングで?」という部分を探り、ポイントが届いたひとたちの購買意欲が刺激される設計を考えていきたいです。
プロジェクトを通して見えた、PMとマーケターの理想的関係
──さまざまな施策をともに進めるお二人ですが、それらの取り組みを通して見えてきた「PMとマーケター」の理想的な関係性とは、どのようなものでしょうか?
浅子 お互いに得意な領域だけで突っ走るのではなく、得意と不得意を補いあっていける関係性がいいなと思います。
そのためには、プロダクト開発とマーケティングのそれぞれの強みと弱みを把握することも大切です。そして両者のさまざまな意見のなかから、クリエイター視点に立ち返って最適な選択肢を取れるといいですね。
廣崎 私はマーケ的な視点で、プロダクトがリリースされた後のROIなどの結果に目が行きがちなんです。ですが浅子さんは、たとえばnoteポイントを利用した方々のその後や、そもそも「noteポイントは、こうあるべきだよね」という視点を常に持っているので、思考の「発散と収束」を行き交うことができ、助けられています。
短期的に収益を上げることも大切ですが、中長期的な視点も加味すること。そのためには、理想と現実のバランスを取りながら、「一緒にクリエイターと数字に向き合える関係」がいいなと思います。
浅子 理想と現実のバランスって、むずかしいですよね。バランスを取ればいいだけでなくて、つかい分けも必要かなと思っているんです。そこがむずかしくもあり、おもしろさでもあるなと感じています。
──最後になりますが、現在PMやマーケターは新しいメンバーを募集中ですよね。お二人は今後こんな方と働きたいというイメージはありますか?
浅子 マーケだけに限らず、クリエイターの「ため」を思って、「こと」に向かえるような人と一緒に頭を悩ませながら働きたいと思います。この「ため」と「こと」は両方大切な考え方なんです。
たとえば「こと」に向かうだけだと、数字が見込める施策のみを進めることになります。ですが、私たちは「クリエイターファースト」を掲げており、自分たちの利益ではなくクリエイターの利益になるかを最優先にすべて判断しています。この「クリエイターのため」という視点がないと、そもそもnoteの思想的に合わなくなってしまうので、そこは必要だと思います。
廣崎 私も浅子さんの意見に近いです。noteにいる人は、noteのミッションに共感して入社している人が多いと実感しています。クリエイターにどのように価値提供をするかが本当に重要なので、「お金を稼ぐ」だけではない考え方ができる人と働きたいですね。
──PMとマーケターの協業についてよく理解できました。ありがとうございました!
note社で働くことに少しでも興味を持っていただけたら、ぜひお気軽にお話ししましょう!