CEOとCTOが語る、noteが目指すインターネットの世界とエンジニア採用を強化する理由
「100名くらいのエンジニアを迎え入れたい」
ピースオブケイクは、エンジニア採用に力をいれています。CEOの加藤さんとCTOの今(こん)さんは、「これから1年で20名くらい採用して、エンジニアの人数を現在の倍くらいにしたい」と語るほど。
エンジニア採用の注力は、今日にはじまったことではなく、今年だけでみても、多くの仲間が増えました。それでもなお、多くのエンジニアを迎え入れようとするのはどうしてでしょうか。
そこで、今回の#noteのみんなでは、noteを運営するピースオブケイクのCEO・加藤 貞顕さんとCTO・今 雄一さんによる、エンジニア採用対談をレポート。
エンジニア採用を強化する理由、求めるエンジニア像について、存分に語っていただきました。採用強化の裏側には、ピースオブケイクがつくり出したい、心地よいインターネットの未来がありました。
【プロフィール】加藤 貞顕(かとう さだあき)
CEO/アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。
【プロフィール】今 雄一(こん ゆういち)
CTO/ディー・エヌ・エーにてソーシャルゲームのサーバーサイド開発業務と運用を経験。2013年9月より現職。noteの立ち上げ時から開発に参加し現在に至る。
サービスが成長してるから、だけではない採用強化の理由
|まだ2合目でしかない、noteが目指す完成形
ーーそもそもの質問ですが、どうしてエンジニア採用をそんなに強化しているんですか?
加藤:noteは今年の1月に1,000万MAUになって、9月には倍の2,000万MAUにまで成長しました。
ユーザー数が倍増しているので、そもそも、いまの機能やサービスを維持するだけでも、やらなくてはならないことがたくさんあるんです。
それに、3月にはnote proという法人向けのサービスをローンチして、こちらも需要が大きい。機能追加や改善を含めて、やるべきことが山積みという状態です。でも、エンジニアを増やしたいのは、「目の前のサービスが伸びているから……」という理由だけではないんです。
もしかしたらnoteって、外の人からみたら、完成しているサービスに映るかもしれません。実際に、そういう声を聞くことが増えてきました。
でも、じつはまだまだnoteって未完成なんです。ぼくたちが目指しているゴールと比較すると、まだ2割もできていないんじゃないかなと思います。
今:そうなんです。理想のサービスを考えると、まだまだ大きくギャップはありますよね。目の前のプロダクト改善じゃなくて、もっともっと、ずっと先のためにエンジニアを増やしたいんです。
加藤:くわしくは面接に来てもらえたら話します(笑)。とにかく、全方位的にエンジニアが足りない状況ですね。
今:フロントエンドやサーバーサイド、インフラはもちろん、機械学習のエンジニアまでと、すべての分野で必要です。
ーー 現時点でのエンジニア組織は、どのような状況なんでしょうか?
加藤:いまは、短期(カイゼンチーム)・中期(開発チーム)・長期(大局チーム)とプロジェクトの時間軸別で3つの組織に分けています。
3つに分かれていることで、週単位で行う細かなカイゼンと、数週間単位の中規模な開発、そしてデータ基盤や決済などのずっと対策が必要な開発を並列で動かすことができます。
今:メンバーが増えても速度が落ちない開発体制をつくるために、試行錯誤してこうなりました。エンジニアの採用面接でも、その方の志向や得意分野によって、どのプロジェクトをお任せできそうかイメージしながら話を聞いています。
加藤:このほかに、機械学習専門のチームやアプリチーム、インフラチームもあります。今後もいろいろ試行錯誤してやっていくのかなと思いますね。
手がけるのは、世界標準化を目指すプロダクト
|世界一のエディタを開発し、夢はデファクトスタンダードに
ーー公開できる範囲でかまいませんので、近い将来にローンチする現在進行形のプロジェクトがあれば、どのような開発を手がけるのかが伝わると思うのですがいかがでしょうか。
加藤:そうですね。いま進んでいるプロジェクトだと、エディタとか『.com』移転についてはどうですか?
今:はい。エディタは、日々進化しているので、そこからお話ししましょうか。
noteのクリエイターが記事を書くために使うエディタは、いま3代目が動いていて、いろいろな機能をつけたりバグを潰しながらやってきたんですが、実装に限界がみえてきました。
本当はもっとやりたいことがあるのに、いわゆる技術的負債があって、拡張性にとぼしくなっています。そこで、エディタのバージョン4をこれからつくろうと。
加藤:noteのエディタって、プロダクトとしてかなりイイと思うんです。ほかのエディタやCMSと比べた結果、noteのエディタがいちばん使いやすいと言ってくれる人も大勢います。
エディタのいちばんの強みは、ひたすらシンプルな画面で創作がしやすいこと。執筆画面がウェブに表示される画面とほとんど同じなので、プレビューとかも不要です。とことんこだわっているから、開発もハードになってしまう。
新バージョンで実現したいことのひとつとして、世界でいちばん使いやすいウェブ上のエディタにしたいと思っています。
でも、エディタの開発の話って、ちょっとマニアックですよね。どういう人にささるかな。
今:ブラウザのcontenteditableをなるべく利用せず、それでいて、使いやすいWYSIWYGエディタをつくる、ということに興味がある人にはささるかもしれません
特殊な領域ですけど、流行りのフレームワークを使ってウェブアプリをつくるのとはわけがちがいますね。Qiitaでしらべても、載っているわけがない領域です。
0→1でつくるので、フロントのいちばんローレイヤーをやるのが楽しいと感じる人であれば、めちゃくちゃ魅力的ですよ。
加藤:じぶんたちでも納得いくエディタになったら、オープンソース化したいと思ってますからね。近々、エディタ専門のチームをつくろうと考えているくらい、本気ですし、ぜったい実現したいと思ってます。
|クリエイターのために、サーバー移転を
今:サーバーサイドでいま大きい案件は、『note.mu』の『note.com』への移行です。
noteは究極のところ、グローバルに普及するプロダクトを目指しています。そのためには信頼性が高い『.com』ドメインへの移転は必要ですし、クリエイターのみなさんに対して、SEOが強いプラットフォームであることは義務です。
じゃあ、さっさとやれよという話なんですが、note規模のサイトがドメイン移行するのは、あまり例をみないんじゃないかと思います。今年にはいってからずっと準備を進めていますが、……この10ヶ月でユーザー数が倍増しているんですよ。
加藤:そうそう。うれしい話ではあるんですが、1,000万MAUのときに計画したものが、あれよあれよと2,000万MAUになったわけで。じつはもう、移転の下準備はおわっているんだけど、いざとなったら恐いところはありますよね。規模が大きくなりすぎて。
今:そもそも、MAUが1,000万から2,000万になる過程で、サーバーアプリのエッジケースの報告がかなり増えました。ぼくたちの予想をしなかった使い方をするユーザーが増えて、それだけ利用者がひろがったということでもあるんですけど。11月末には移行するので、がんばりたいと思います。
|トラフィックの大きいサービスだから、データ基盤がおもしろい
加藤:あとはグロースチームが心待ちにしている、データ基盤の話はどうですか。
今:データ基盤もおもしろい時期ですね。
どこをクリックしたとか、どこまでスクロールしたとか、ユーザーの行動や履歴を残して記事のマッチングや集計に役立てるんですが……。こういうと普通の話に聞こえてしまいますが、noteはトラフィックが膨大なのでデータ量が多い。
普通にやると負荷に耐えられなかったり、データロスしがちなんです。だから、この規模のデータ基盤をつくるために、AWSのベストプラクティスを調べて、負荷をさばける技術選定をしてと、試行錯誤しながらやっています。
なにがおもしろいのかというと、noteというプロダクトの枠から離れて、これを試してみたいとか実験してみたいとか、エンジニアとしての欲を満たせる段階なんです。
サービスが大きくなったから、データをとるのが効いてくるし、優先度が上がりましたね。小さいうちにやっても、データがたまってないからおもしろくないし、開発を急いだほうがいいという意思決定になる。大規模なプロダクトならではのおもしろさがあります。
ミッション実現のために、評論家や社内政治は不要
|エンジニアに求めたい、「クリエイティブでいこう」とは
ーーnoteが目指す世界にたどり着くためには、さまざまな分野のエンジニアが必要だとわかりました。でも、技術力があればOKというわけではないですよね。
今:精鋭でなくては実現できない世界なので、技術力が必要なのは大前提です。そのうえで、ピースオブケイクのミッション・ビジョン・バリューを理解して、コミットできることが必須になります。
加藤:今さんがあげてくれた「バリュー」には、社員に大事にしてほしい考え方がまとめられています。そのなかに、「クリエイティブでいこう(Be Creative)」というのがあるんです。
クリエイティブでいこう / Be Creative
クリエイティブというのは、ある状況に対して、前向きに楽しく問題を解決しようとする姿勢を指します。どんなに困難に見える課題でも、クリエイティブに解決する糸口は必ずあります。ピースオブケイクのメンバーはそれを追い求めます。
クリエイティブというと、作家が新しい作品を…みたいな話に思われがちですが、それだけではないですよね。実際、すぐれたエンジニアはみんな、クリエイティブじゃないですか。コードを書くというのはそもそも創作作業だし、その前段の設計なんて、ものすごくクリエイティビティを求められます。そういうことを、楽しんでできるひとを求めてます。
たとえば、前にも話したんですが、板橋さんというエンジニアに、CXOの深津さんがデモ版としてつくったマンガビューアのコードを、noteにインテグレートするのをお願いしたんです。そしたら勝手にWebGLで動くように改造して、爆速にしてしまったということがありました。こういうの、クリエイティブだし、すごくいいなと思うんです。
今:そういう姿勢って、エンジニアに限りませんけど、ぼくたちが仲間にもとめるクリエイティビティですよね。
だれかが書いた仕様書にそって進めてもらう。そんな開発方法もありますが、それじゃ楽しくないし、いいものができないし、結果として時間もかかっちゃう。その逆でやりたいんですよ。
ーークリエイティブな発想で、ゴール逆引きで、裁量をもってやってもらいたいということですか?
今:そうですね。だからこそ、自由にやってもらうために、前提となる価値観のすり合わせは、大事だと思っています。
入社前はもちろんですが、働きつづけるなかでも、1on1を通じてミッション・ビジョン・バリューを軸にして、ゴールや価値観がブレないように取り組んでます。
加藤:逆に言うと、価値観さえそろっていれば、技術的にも信頼できるメンバーと仕事をしているので、こまかくやり方を指定しなくても、アウトプットが食い違う心配はないんです。むしろ期待以上のものができあがる。今後もずっと、そんなふうにやっていきたいですね。
|批判や評論よりも、行動に移せる人がクリエイティブ
ーーこれまでの採用活動で、スキルは素晴らしいけど、価値観が合わないと感じたケースはありますか?
加藤:会社としては、多様性を重視しているので、とがっている人とか、主張がある人とかは大歓迎です。実際、ちょっと変わってる人も多いかもしれません。目指しているゴールと価値観さえ握れていればそこは問題にならない。
ただやっぱり、目標としているゴールとか、ミッション・ビジョン・バリューに共感していないと、お互いに合わなくてつらくなる、ということはあるかもしれませんね。
たとえば、どんなタイプが合わないかというと……
今:評論家タイプの人とかですかね。問題を指摘するだけとか。
ウチには、まだまだ問題がたくさんあるんですよ。それを「問題だ」「ここがイケてない」とだけ言われても、知っとるわっ! と思ってしまう(笑)。
加藤:それはめっちゃありますね。組織もまだ小さいし構築の途上で、しかしサービスは伸びている。だから常に新しい課題が生まれるんです。
そういうとき、人間はふたつに分かれますよね。問題を批評する人と、じゃあこうやって解決しようって行動する人。さっきも言いましたが、クリエイティブって、後者のような態度なんじゃないかなと思うんです。目の前の壁を乗り越える方法を考えて、楽しんで向かっていくような。
今:いまいるメンバーは、いろんな経験をしてきています。ベンチャーのカオスみたいなものだったり、組織が拡大するフェイズでのダークサイドだったりを前職までに味わっている。それでも、経験したことのない課題が日々起きている。
そんなときに、「こんなことが起きるんだ。おもしろいね」くらいの気持ちで、「じゃあ、どうやって解決しようか」と考える人が多い気がします。
加藤:大きな課題を乗り越えることは、もちろんたいへんなんだけど、考え方によっては楽しむことも可能だと思うんです。問題が起こって、それを解決して、経験値を上げて……とやっていくと、技術力もどんどん上がっていきます。そして、組織も力をつけていく。こういう循環がいいなと。
|社員が成果を発揮するために、経営陣が徹底していること
ーービジョンに向かって突き進める人が多いようですが、阻害するような要因はないんですか? 組織が急激に大きくなると、どうしても社内政治みたいなのも生まれてきそうです。
加藤:社内政治は、発生しないようにかなり気を配っています。人間って、本能的になわばりをつくりたい存在だと思うんです。だからまず、経営陣が「そういうことはNG」であることを明確にする必要があります。かつ、情報はできるだけオープンにしたり、組織をなるべくフラットにしたり、仕組みとしても意識して取り組んでいるところですね。
今:そんなことに気をつかっているひまがあったら、ミッションを実現するためにやるべきことがありますよね。縄張り意識とか社内政治は、「ダメゼッタイ」という方針です。そういうのが好きな人は遠慮していただくのがお互いにとって幸せだと思います。
加藤:これ、けっこう難しいことなんですよ。たとえば、エンジニアとビジネスサイドが衝突したりとか、よくある話ですよね。部署が違うと、役割が異なるわけで、短期的な利害が食い違うことはいつでも起こりうるわけです。
会社のミッションやビジョンをすり合わせることにこだわっているのはそのためです。みんなで長期的なゴールを共有することが非常に重要だと思います。
あと、なわばり意識みたいなものって、個人的にも本当に嫌いなんです。ビジネス的にもいいことはまったくないし、お客さんを第一に考えないのって、本当にイケてないですよね。だから、オープンさや、フラットさ、風通しのよさはそうとう気をつけてますね。
今:そういえば「席変え」もその対策のひとつですかね。3ヶ月に一回、くじ引きで席替えをしてるんです。エンジニアの島とかはなくて、わたしもたまたまですけど、いま隣にいるのはビジネスサイドの責任者です。
コミュニケーションが活発になるし、入社したばかりの人が孤独になることも減る。カスタマーサクセスの人が近くにいれば、ユーザーの声を開発に活かすこともしやすくなる。
加藤:もちろん、おなじ職域の人が固まっているほうが、効率性がいい面はたしかにあるんです。でも、現在のところは、垣根をなくすことを優先しているんですね。
なので、きちんとコミュニケーションが取れるのかは、面接の際に確認していますね。べつに、おしゃべりであることを求めているわけではありません。必要なコミュニケーションができれば大丈夫です。
今:そうですね。最低限のコミュニケーション力があって、技術を追求して、noteのユーザーに価値提供をしたいと思える方が最高ですね。
そんなエンジニアに対しては、快適というか、パフォーマンスを発揮しやすい環境を提供できると思ってますし、この先も努力は惜しみません。
そのかわり、要求する水準は高いです。特定のやり方を踏襲しろとか、マイクロマネジメントはしない方針なので、自分で最適解を考えて、それこそ、クリエイティブに働いていただきたいですね。
加藤:たしかに、期待する水準は高いと思います。でも、高い目標をかかげて取り組むほうが、ぜったいにおもしろいじゃないですか。
しかもnoteというサービスは、試したことがすぐにユーザーからの反響として返ってきます。ちょっとした工夫でも、大規模な機能追加でも、利用者が多いからこそ実感できる反響がある。
ピースオブケイクの開発は、ワクワクするプロジェクトが連続するタイミングなので、おすすめだと思います。
ーー多様性や個人の成長を尊重しながら、クリエイターへの価値提供をまっすぐに考えているということが伝わりました。ここでは伝え切れない未来のこと、エンジニアリングの深い部分については、面接で聞いていただきたいですね。実現したら、絶対にインターネットの世界が変わるとワクワクしました。
Text by 城戸内 大介、Photo by 佐賀野宇宙