金のストーリーは社内にねむる。自社の「らしさ」を発掘し、生活者独自の物語に寄り添うナラティブ型コミュニケーションを
企業が自社のブランドストーリーを語る重要性が問われて久しく経ちます。しかしそれを実践し、成功を収めている企業はいまだ多くはありません。そもそもなぜブランドストーリーが必要なのか、ストーリーを作り語るために企業はどう考え方を変えなければならないのか。
noteでは、「プロに聞く!戦略的ブランドストーリーの作りかた」と題してトークイベントを開催。PRやマーケティングの最前線で活躍する3名に議論していただきました。
登壇いただいたのは株式会社本田事務所・本田哲也さん、トライバルメディアハウス・池田 紀行さん、STEKKEY・松丸祐子さんです。
noteは、2021年5月にこの3名の企業・組織とnote proマーケティングパートナーを発足。法人向けサービスのnote proを活用する企業のメディア運営を、戦略から支援する制度を設けました。
PRの最前線で活躍され、自身もソーシャルメディアを長く活用されている皆さんに今後のブランドストーリー戦略のあり方についてたっぷり語っていただきます。
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登壇者紹介
本田 哲也(ほんだ てつや)
SCALE Powered by PR ファウンダー
株式会社本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト
日本を代表するPR専門家。PRWEEK誌で「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出。海外での活躍も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは公式スピーカーや審査員を務める。『その1人が30万人を動かす!』『戦略PR』など著書多数。2021年5月『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』を上梓。
池田 紀行(いけだ のりゆき)
株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長
ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタントなどを経て、2007年トライバルメディアハウスを設立。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。『次世代共創マーケティング』ほか著書・共著多数。
まつゆう*/松丸祐子
株式会社STEKKEY 共同ファウンダー
98年よりWebで独自の「かわいい」カルチャーを発信。個人活動のかたわら、2018年よりSTEKKEYの共同ファウンダーとしてエージェンシー事業と自社IT事業を展開。近著に『noteではじめる 新しいアウトプットの教室 楽しく続けるクリエイター生活 改訂版』がある。
<モデレータ>
徳力 基彦(とくりき もとひこ)
note株式会社プロデューサー/ブロガー
NTT、IT系コンサルティングファームを経て、 2019年より現職。著書に『顧客視点の企業戦略』『アルファブロガー』などがある。自身が企画するnoteイベント「ビジネスに役立つnoteやSNSのつづけ方」レポートが2021年4月より日経クロストレンドにて連載開始。
note:https://note.com/tokuriki/
ブランドコミュニケーションは双方向かつフラットに変化
徳力 この15年ほどで世の中の価値観は劇的に変化しました。ブランドコミュニケーションについては具体的になにがどう変わったのでしょうか。
池田 むかしは企業が主役で、商品やそれに付随する「価値」を作って消費者に売っていました。でもいまは、ソーシャルエコノミーやシェアリングエコノミーが当たり前になり、生活者自身が価値を作って受益するようになっています。
当時凄まじく大きな影響力をもっていたペイドメディアは、以前よりも格段に信用されにくくなってしまいました。広告の中身は企業の思惑によっていかようにもコントロールできることがわかってしまったからです。信用できるのは中立的なニュースの記事とソーシャルメディアの口コミやインフルエンサーが言うことだけだと人々が思うようになった。
これだけ変化した世界で以前のように企業がブランドをコントロールすることは不可能です。生活者が主導している世界でいかにブランドを伝えていくか、発想を根幹から変える必要があります。でも、企業はびっくりするほど変わっていません。
本田 「ブランドコミュニケーション」といっても、実質的なコミュニケーションにはなっていなかったということですね。コミュニケーションは本来、双方向で行われるものなのにそうなっていなかった。ブランドが消費者よりも上の立場にあり、一方向的にブランドについて伝達していただけだったんです。
けれどテクノロジーが発達してSNSなどが実装されると、双方向のコミュニケーションが容易にできるようになって。いまは対等というか、ブランドが生活者の友達の1人みたいな位置づけになっています。このように、双方向かつフラット化した点がブランドコミュニケーションの大きな変化だと思います。
一方的にブランドストーリーを伝えるのではなく「生活者一人ひとりがもっている物語のなかに入らせていただきたい」という姿勢が必要となりました。ストーリーテリングではなく、双方向で物語を編むナラティブなコミュニケーションが求められていると思います。
徳力 企業の方々はそうした変化に追いつけていないから、SNSで発信するときも一方的な宣伝文のようになってしまうんですね。自分たちの商品の良さを端的にパンフレットに書くような感じで。
まつゆう* 私がインフルエンサーとして活動していたときも「商品についてこのように書いてください」とよく指示を受けました。私は本当に思ったことだけを書いて「嘘を書くなら辞めます」と言ってましたけど(笑)。
池田 むかし雑誌を使ってタイアップ広告をやっていたときと発想が変わってないんですよね。雑誌が売れなくなったから、同じことをインフルエンサーを使ってやろうってだけで。双方向のコミュニケーションにはなっていない。
宝は社内に散らばって存在する
徳力 長い目でみてお客さんから選んでもらえるブランドになるためには「このブランドは私にとって大切なブランドである」とわかってもらわないとならない。ブランドコミュニケーションのあり方が激変するなかでみえてきたことですね。
でも企業の担当者は、利益を追求する中で自社の存在意義やもともとのあるべき姿を見失っていることもしばしばです。どうすればそれを取り戻すことができるんでしょうか。
まつゆう* 自社のサービスで「ストーリーチャット」というのがありまして。企業の伝えたい想いを、ターゲットに合わせた語り口調や演出でお客さんにお届けするチャットサービスなんですが、担当者自身がその「想い」を理解しきれていないことがあるんです。
そこで私たちは、担当者にインタビューをしてブランドやプロダクトエピソードを、ユーザー視点に立ってわかりやすく物語にしています。そうやって他人から客観的に話を引き出されることで、担当者の方も整理ができていくんですね。
本田 確かにそうですね。僕らもPRの戦略を立てるときは対峙している部門以外の方に話を聞くようにしています。部門が離れていればいるほどよくて、商品の開発者よりも基礎研究をしている方の話を聞いたりします。
企業にとって大切なものは、社内のなかでバラバラに散らばっているんですよね。それを僕たちが拾っていって再編集する作業がとても大事だと思っています。
池田 社内の宝探しをさせてもらって、つないでいくんですよね。社内の人にとっては当たり前すぎて気づけないものを、僕ら外部の人間が発掘する。
それと僕は担当者に、いちばん真似したいのはどの会社かをたずねるようにしています。そのとき、生活者にうまく「伝えている」会社ではなく、うまく「伝わっている」会社を思い浮かべてくださいと言うんです。そうやって考えてみると、一見うまくストーリーを発信しているようにみえる企業でも、意外とソーシャルの中では生活者のエンゲージメントが低いなど、実は発信の中身が伝わっていないということがわかってきます。
事例を真似するためではなく、こうした作業を経て、担当者が潜在的に描いている理想的な伝わり方を明確にし、すり合わせることが大事だと思っています。
ストーリー作りのポイントは「らしさ」にあり
徳力 ストーリーになりそうな要素がいくつか見つかったとき、企業はなにをポイントに選別していけばよいのでしょうか。まつゆう*さんはブランドの話を聞いて、どのようにお伝えするんですか。
まつゆう* 私はユーザー目線で感じたことをバンバン言うようにしています。例えば、ある化粧品メーカーでイベントをやったときです。店頭スタッフの皆さんが、スキルも人間性もとても素晴らしくて。だから、そのスタッフさんたちをもっと前に出しましょうと提案しました。
本田 僕は要素選びのポイントはその会社「らしさ」だと思いますね。たくさん要素がある中で、ふるいにかけてここだけは固有だと思うものに絞り込んでいくんです。
池田 僕も「らしさ」に尽きると思っています。ユニークセリングプロポジションで、その会社のUSPを見つけます。
顧客ニーズがあり、競合他社にはできない強みがなんなのかパッと言える担当者ってほとんどいないんですよ。担当者は自社しか知らないので相対的に比べることができないから。だから、僕たち外部の人間が「いろんな企業で宝探しをさせてもらったけれど、この美点はほかのどこにもありませんでしたよ」と伝えることが必要だと思っています。
徳力 なるほど、外部の助けをかりて自社の強みを発見していくんですね。ほかに、企業の人が自分たちですぐに取りかかれることはありますか。
まつゆう* 社員同士でインタビューし合うのがいいと思います。週1回でも、月1回でもよいので。ひとから質問されてバーっと喋ることで、自分がふだん考えていることをより深く理解できるようになります。忘れていたけれど、社内にはよい点がこんなにあったんだって気づけることもあるんじゃないでしょうか。
本田 先日、サンリオエンターテイメント代表の小巻さんにお会いしたんですが、朝会ではかならずみんなが「なぜこの会社に入ったか」「なにが好きで仕事をしているのか」を話すというカルチャーがあるんだそうです。すばらしいと思いました。自分はなににワクワクしながら仕事をしているのかを社内で共有することで、USPにつながるものが自然とみえてくると思うんですよね。
池田 僕は「伝わっている」例を探すことをおすすめします。とくに興味がないジャンルなのに、なぜかその会社の商品やサービスの情報が自分のなかにあるていど染み込んでいると感じる場合、きっとそれは伝え方がうまいから。真似できるポイントを探ってみると、おのずと一方的なストーリーテリングはしていないはずです。それをヒントにするのがいいんじゃないでしょうか。
徳力 みなさんどうもありがとうございます。ブランドストーリーをつくるには自社にねむる「らしさ」を探すこと。そして、生活者一人ひとりの物語に自社のストーリーを編み込ませてもらうナラティブなコミュニケーションが必要だとわかりました。今後もnote proマーケティングパートナーとして、一緒にnoteを盛り上げていただけるとうれしいです。