D2Cブランドに求められる情報発信とは? #等身大の企業広報 イベントレポート
noteプロデューサーの徳力基彦さんをモデレーターとして毎月開催している『等身大の企業広報』イベント。5月27日(木)に開催された第3弾では、「D2Cブランドに求められる情報発信とは?」をテーマに、北欧、暮らしの道具店を展開するクラシコムの青木さんと、FABRIC TOKYOの森さんにお話しいただきました。
年々拡大しているEC市場のなかで、海外のみならず日本でも注目されている「D2Cブランド」。仲介業者を介して商品を販売する従来のスタイルと異なり、自社の商品をダイレクトに販売する方法は、消費者との新たな関係性をうみだしています。
イベントでは、D2CブランドならではのECサイトの運営方法や、情報発信する上で大事にしていることを、おふたりにじっくり伺いました。これからの企業広報のあり方を探りたい、自社の情報発信に力を入れていきたいという方、必見です!
イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。
伝言ゲームをやると情報が薄まってしまう
ー 本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいですか?
青木さん:『北欧、暮らしの道具店』という、雑貨やお洋服、お化粧品といったものを販売するeコマースの会社を経営しております。eコマースの会社の多くは、広告をつかって新しいお客様をふやしていくという取り組みをされているかと思いますが、我々の場合は、そのためのコストを「コンテンツをつくる」ということにあてています。記事や音声コンテンツ、動画のコンテンツ、冊子など、さまざまな形のコンテンツをたくさんつくることでお客様に興味を持っていただくという取り組みを2012年ころからはじめています。
青木 耕平さん
株式会社クラシコム『北欧、暮らしの道具店』代表取締役
2006年、実妹と株式会社クラシコム共同創業。2007年秋より北欧雑貨専門のECサイト『北欧、暮らしの道具店』を開業。「フィットする暮らし、つくろう。」というコンセプトのもと、北欧に限らず、世界各地、そして日本の、実用的でありつつ暮らしを彩るものを独自の視点でセレクトして販売している。現在は、EC事業のみならず、オリジナル商品の企画開発、各種チャネルで日々の暮らしに関するコンテンツ配信や、企業とのタイアップ広告、ドラマやドキュメンタリーなどの動画や劇場映画製作など様々な取り組みをしている。
森さん:オーダーメイドのビジネスウェアブランド『FABRIC TOKYO』を提供しています。2014年にオンラインからスタートして、2016年からは採寸に特化したリアル店舗も全国に14店舗展開しております。店舗では物は売らず、来ていただいたお客様の採寸をして、そのデータをクラウド上にお預かりしています。そうすることで、ECサイトで試着なしでサイズがぴったり合ったお洋服を買えるようになります。「洋服を買うには試着しなければならない」という課題をクリアし、お客様にスムーズな購入体験を提供させていただいています。
森 雄一郎さん
株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役CEO
1986年生まれ岡山県出身。大学卒業後、ファッションイベントプロデュース会社『ドラムカン』にてファッションショー、イベント企画・プロデュースに従事。その後、ベンチャー業界へ転向し、不動産ベンチャー『ソーシャルアパートメント』創業期に参画した他、フリマアプリ『メルカリ』の立ち上げを経て、2014年2月、カスタムオーダーのビジネスウェアブランド『FABRIC TOKYO(旧・LaFabric)』をリリース。”Fit Your Life”をコンセプトに、顧客一人一人の体型に合う1着だけではなく、一人一人のライフスタイルに合う1着の提供に挑戦中。
ー おふたりが発信をはじめた背景というのは?
森さん:「伝言ゲームをやると情報が薄まってしまう」と感じたからです。いろいろな工夫をしてお客様への思いを載せてつくったのに、小売やメディアを介しているうちに、こちらの伝えたかったこととは違う内容で伝わってしまうことがあるんです。
また、「お客様が何にお金を払っているか」を考えたときに、たとえばお洋服は布と糸でできていますが、そこにお金を払っているわけではないですよね。生地や縫製、パターンのクオリティなど、さまざまな要素がありますが、それに加えて大事なのは、その洋服がどうやってつくられているかという「ストーリー」だと思うんです。たとえば私がいま着ているシャツやズボンも、南米の僻地からとってきた材料をつかったりしているんですね。「1枚の洋服をつくるために世界一周している」という話もあって、そういう話もおもしろいはずなのに、あまり発信されていない。だから、やはり直接お客様に情報を発信することが求められる時代なのかなと。インターネットによってそれが可能になりましたね。
広告にかけるコストをコンテンツに投下する
ー なるほど。森さんはFABRIC TOKYOを立ち上げたときから情報発信に力を入れておられましたね。森さんの世代はたぶん情報発信も当たり前だし、先人もいるから、それを参考にいまのスタイルに辿り着かれたのかなと思います。一方で青木さんは、「広告にかけるコストをコンテンツに投下する」という考え方でやっていると先ほどおっしゃいました。なぜその考え方に辿り着けたんでしょうか?
モデレーター:徳力 基彦さん(noteプロデューサー)
青木さん:広告費に圧迫されて利益があまり出ていないという時期があったんです。具体的には、年間売上の2割近く、当時でいうと約4000万円を広告費につかっていたんですが、そこまでかけても変化はこの程度なのか、と思ってしまって。4000万円をまるまる広告費にかけるより、もっと別のこと、たとえば年収500万円のひとを8人雇うとか、そういうことにつかったほうが起こる変化量が大きくなる、と考えたんです。
それで、出していた広告を少しずつ縮小していき、それと並行して「記事を書く」ということをはじめました。当時参考にさせていただいたのは『通販生活』さんですね。通販生活さんのカタログを見ていると、実際に商品を紹介しているページは全体の半分くらいで、あとの半分はいわゆる読み物のコンテンツになっているんです。おそらく読者の半数くらいの方は読み物コンテンツを目当てに、お金を出してカタログを買われているんですね。このようなコンセプトは、じつはインターネット以前からあったものなんです。
現在は、記事以外にも動画や音声など、さまざまなコンテンツをつくっています。ただ、コンテンツ全体の「量」に関してはこだわりがないというか、中途半端なコンテンツをたくさんつくるよりもクオリティの高いものを1個つくったほうがいい、という考え方でやっています。
コンテンツ発信は2つに分かれる
ー おふたりが発信されているコンテンツは、いわゆる商品概要ではないですよね。かといってマスメディア的な、中立的な立場で商品を紹介しますみたいなものでもない。おふたりのなかでの、コンテンツ発信のこだわりのポイントについてお聞きしたいと思います。
森さん:コンテンツって2つに分かれると思うんです。1つが「ほしい」と思ってもらえるようなコンテンツ。もう1つが「買ってもいいんだ」と安心させられるようなコンテンツ。たとえば、お客様のインタビュー記事なんかは安心させられるコンテンツですよね。「こういうひとが着ているんだったら私が買っても大丈夫かも」という。一方、タレントの方やモデルの方に着ていただいて発信するコンテンツは、「かっこいい」「私もほしい」と思わせるものになります。その2つのコンテンツはきちんと分けるという工夫をしています。
青木さん:15年も会社を続けていると、自分たちが置かれているフェーズや、お客様からどのように認識されているかということがどんどん変わっていくんです。親しみやすさみたいなものが求められるフェーズもありますが、逆にそれが許されなくなるフェーズもある。そうなると、コンテンツ自体のクオリティを上げたり、チェック体制を厳密にしたりということが求められるようになりますし、その分のコストや時間もかかります。そういう意味では、自社のフェーズの変化を捉えて、適切なレベルに調整していくということがすごく重要だと思います。
収支ではなくバジェットの問題
ー フェーズに合わせて会社も成長していかないといけないということですね。北欧、暮らしの道具店さんは、もともとはテキストの情報を中心に発信されていましたが、2019年に『青葉家のテーブル』というWebドラマをつくり、その映画版が6月18日(金)から東宝系で全国公開されるそうですね。
青木さん:はい。Webドラマの制作を決めたときは、予算が当初想定していた金額の7倍に跳ね上がりました。それでも、お客様には100%喜んでもらえるだろうな、興奮してもらえるだろうなという確信があったんです。会社として儲かるかどうかはわからないけど、お客様を興奮させられるような新しいことを思いつけるのって、3年〜5年に1回とかなんですよ。なのでもうこれは収支の問題じゃなくてバジェットの問題だなと。価値さえつくればお金なんていくらでも取り返せるんです。だから、最初は価値に対してフォーカスして、それがお客様に伝わったあとで、どのように収支を合わせていくかを考えればいい。
結果的にはドラマもリクープして、すでに収益が出ているんです。映画も基本的にはリクープする前提でやっています。ドラマや映画の制作を、会社のブランディングとかマーケティングのためにやっているという意識はなくて、完全に新規事業として捉えていますね。
ー すごい。経営者ならではの考え方ですね。インターネットラジオ『チャポンと行こう!』も人気ですよね。
青木さん:『チャポンと行こう!』は、いま発信しているコンテンツのなかでも一番人気というか、熱量が高いですね。お客様からのメールやアンケートのコメントを見ると、だいたいそのとき旬のチャネルが枕詞になるんですよ。ある時期は「いつもインスタ見てます」だったり、YouTubeが勢いがあるときは「いつもYouTube楽しみにしてます」だったり。それが『チャポンと』以降は圧倒的にチャポンとになって。『チャポンと』を聴いているリスナーのことを「チャポラー」と呼ぶようになり、「私もチャポラーです」というお客様がふえてきた。お客様の反応で、そのとき何が一番勢いがあるかがわかります。
ブランドとして社会問題に一石を投じる
ー 一方、FABRIC TOKYOさんは、ジェンダーインクルーシブをテーマとしたメッセージ性のあるイベントを開催されています。
森さん:FABRIC TOKYOは基本的にメンズのビジネスウェアブランドなんですが、性別を問わずメンズパターンのオーダースーツをお買い求めいただける『FABRIC TOKYO think inclusive fashion』という企画を定期的にやっています。背景としては、女性の社会進出が進み、管理職など責任のある立場にある女性がふえていること、また、ジェンダーの多様性を認め合う動きが広がっているということがあります。性別というラベルに関係なく、誰もが職場で働く上で、自分の武器となる、自分のアイデンティティーをしっかり保てる洋服を提案する、というコンセプトです。
このWebサイトに掲載されているビジュアルのモデルさんは、既存の概念に囚われずご自身のスタイルを楽しんでいる方、という基準でキャスティングさせていただきました。ご覧いただくとおわかりになるかと思いますが、男性のパターンでつくったオーダースーツであっても、性別を問わずかっこよく着こなせるんですよね。非常にファッショナブルでもあるし、ファッションを通じて誰もがもっと自分らしさを表現することを後押ししたいという思いがあります。TwitterやInstagramでのお客様の反応もすごくよくて、「こういうの待ってた」とか、「女性向けのスーツってぶっちゃけ着たくないよね」みたいな声がものすごく多いんです。心も体も女性なんだけれども女性向けのスーツには違和感を抱いていたというお客様も多いですね。
ー 服装自体が職場における男女を分断する1つの要因になっているんじゃないかという議論もありますからね。そこにブランドとして一石を投じながら、それがビジネスにもつながっているんですね。「企業広報」というと普通は商品の特徴とか会社自体を広報するイメージですけど、これは逆ですよね。社会の問題に合わせて自分たちが何をできるか考えた結果、こういう活動をするということ自体がメッセージになっている。非常に面白い例だと思います。
自分たちが楽しむことが何より大事
ー 最後に、もしおふたりが社長じゃなくて一担当者だったらまず何からはじめるかということを、ヒントとしていただいて締めにしたいと思います。
森さん:予算はゼロで大丈夫だから、新たな発信手段をはじめさせてほしいというような提案をすると思います。たとえば、社員たちのその日のコーディネートをアプリにアップするという取り組みをされているアパレル企業さんもいらっしゃいますよね。「コーディネートをアップする」というと、プロのカメラマンとか撮影スタジオを用意しなきゃ、と思いがちですけど、いまはそれこそスマートフォンとスタンドさえあれば自分で撮れる時代じゃないですか。そういうことからコンテンツとかチャンネルづくりをスタートさせることができると思います。
青木さん:自分たちが楽しむということが何より大事だと思います。大きな会社であればまず一緒に働いている仲間から「おもしろそうだな」と思われないと話にならないと思うんですよね。だからまず本人が「これは掘ったらおもしろいぞ」と思えるものを見つけて、それをめちゃくちゃ楽しんでいる様子を周りにわかるようにしていく。そうすると社内のひとも巻き込めるし、それがひいてはファンとのコミュニケーションにも発展していくのかなと思いますね。
ー 非常に本質的ですね。おふたりのお話はシンクロしていますよね。おふたりとも今日は参考になるお話をありがとうございました!
次回の『等身大の企業広報』イベントは、6月24日(木) 19時から開催予定です。「顧客を巻き込むコミュニケーションとは?」をテーマに、キリンの松尾さんと、食べチョクの下村さんにお話しいただきます。自社の情報発信に力を入れていきたいという方、ぜひご参加ください。