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note急成長のカギ、「グロースモデル」徹底解剖

note急成長の秘訣、それは「ひとつのKPIではなく、”グロースモデル” で、バランスよく施策をまわしたこと」かもしれません。

この「グロースモデル」とは一体なんなのか。noteの開発を語るうえで必須用語であるものの、全体像が語られることはありませんでした。

そこでnoteのプロダクトマネージャー(PdM)である石坂さんが、グロースモデル発案者でCXOの深津さん、グロースモデルに沿った開発と運営を先導してきたCEOの加藤さんに話を聞きました。


Amazon創業者ジェフ・ベソスも掲げる「グロースモデル」とは?

石坂さん:まず、「グロースモデルってなに?」というところから教えてもらえますか?

加藤さん:noteにおけるグロースモデルとは、こちらのロジック図になります。たしか、2017年に深津さんがnoteに参画することが決まって、2週間くらいたったころだったかな。オフィスへ来たときにいきなり持ってきてくれたんです。

noteのグロースモデル。「クリエイターが集まる」「コンテンツが増える」「読者が集まる」の項目をバランスよく成長させることを目指している。

加藤さん:一般的には、noteのようなプラットフォームにおいては「どれだけクリエイターが集まったか」「どれだけコンテンツが増えたか」とか「どれだけ流通金額があったか」などがKPIとして掲げられることが多いと思います。

ただ、どれかひとつだけにフォーカスした対応をすることで別の指標が停滞してしまっては意味がありません。

石坂さん:というと?

加藤さん:仮に「どれだけコンテンツが増えたか」をKPIに設定していたとしても、コンテンツが増えると読者は読みたいものが発見しづらくなる可能性があります。その状態が続けば、読者だけでなくてクリエイターの満足度も下がるし、そうなるといずれnoteそのものの価値を下げてしまいます。

だから、ひとつの指標にフォーカスするのではなく、複数の指標をバランスよく追っていく必要がありました。

深津さん:Amazonでも似たようなグロースモデルを「フライホイール」と呼んで、すごく大切にしていますね。日本語で言うと「はずみ車」。

創業者のジェフ・ベソスが、このロジック図を紙ナプキンに描いた逸話は有名です。

Amazonが用いているグロースモデルのイラスト

Amazon Jobs「Amazonについて」より

石坂さん:「顧客のいい体験をもとに、クチコミで広がっていくモデルにする必要があった」というのが出発点なんですね。

プラットフォームの本質はINよりも、STAY

加藤さん、深津さん、石坂さんが真剣に話している様子

石坂さん:どのように現在のグロースモデルのロジック図に着地したのでしょうか? ウェブサービスだとリボンモデル(※ユーザーと事業者を両端に置いたリボンに見立て、それぞれをいかにあつめてマッチングさせるかを描いたビジネスモデル)がよく使われますよね。

深津さん:リボンモデルは、サービスの全体フローを記述するものです。ですが「拡大再生産」するロジック設計には向いていないと思います。スタートアップとしては、拡大再生産のロジック化は早めにやるべきです。

ぼくが手伝いはじめたのが、2017年8月頃。それ以前のnoteは「丁寧にいいものを頑張ってつくる」という開発スタイルだったんですが、拡大再生産の視点は弱めでした。グロースモデルの構築を通じて、ギアを入れたイメージです。

加藤さん:いまの話はすごく重要なんですよね。どんなロジックでグロースさせていくかの構想がないままだと、たとえばCMに5億円投資して、とにかく会員獲得をがんばろうといったような判断になりかねないわけです。

ぼく自身、いろいろなひとからそういうアドバイスをされたこともあります。でも、プロダクトが磨ききれていなかったり、創作に専念できる土壌ができあがっていないまま、IN(流入)だけを増やしても意味がないのでそれはしなかった。投資家などから「売上のトップラインをとにかく伸ばしてほしい」といったリクエストを受けることも、スタートアップあるあるですよね。

深津さん:noteというプラットフォームにとって、本質はIN(新規)ではなくSTAY(継続)です。

加藤さん:noteの原点は、クリエイターの創作。創作はお金を積まれたり、だれかに頼まれたりしてやるものではなく、もっと自発的な衝動から生まれるものですよね。STAYにつながる話だと思いますが、自発的になにかを創って、見てもらえるサイクルがまわっていかないとやっていても楽しくない。

7周年の事業発表会で登壇する加藤さん

▲7周年の事業発表会で、noteのめざす姿を熱弁する加藤さん。クリエイターが活動の本拠地とするような場所をつくりたいと考えている。

深津さん:ぼくはここ10年ぐらい「継続率が大事」と言い続けてきたんですが、ネットサービスの市場では2010年代前半から「獲得」が重視されてきました。最近ようやくSaaSサービスの普及もあって「継続率が大事」という合意が業界全体でとれてきたので、すごく嬉しい(笑)。

加藤さん:「noteは街」という言い方をしていることからもわかるように、立ち寄ってほしいというよりも、住んでほしいんですよね。だから、まさにSTAYなんです。

グロースモデルは、いかに活用されてきたか

石坂さん:グロースモデルは策定されてから、どのように活用してきたのでしょうか? 現場感としては日々の開発やコミュニケーションにおいても引用されることが多いですよね。

深津さん:まず、オフィスでの日常会話においても意識してもらえるように、各指標の数値をひろうダッシュボードをつくりました。それを踏まえてそれぞれの指標のバランスをとっていけるように、定期的にコミュニケーションをとるようにしていましたね。

社内にあるディスプレイでダッシュボードをチェックしている様子

▲2019年ごろのオフィスの様子。社内のディスプレイには、常時ダッシュボードの数値が表示されていた。

石坂さん:深津さんがつくってくれたグロースモデルの図は比較的要素が少ない気がするんですが、それは意識しているところですか?

深津さん:そうです。より細かく記載したバージョンもありますが、全体で共有するにはこれくらいシンプルなほうがわかりやすいと思っています。

加藤さん:みんながひと目で状況を把握できるのが、いいところですよね。

グロースモデルの使い方として最大のポイントは、「バランスをとる」なんですよ。「一つひとつの流れがちゃんとワークしているか」「キーとなる項目間のつながりが切れていないか」などがチェックできる。

グロースモデルのバランスが崩れていないかをチェックしているイメージ図

加藤さん:「今回のプロジェクトはこの線を強化するもの」みたいな感じで意識づけができるので、特に短期の開発施策をまわすカイゼンチームは猛烈に活用してきました。

深津さん:各スポットだけではなく「各スポットでやったことが次のスポットにどうつながっているか」という“点と線”で意識することが大事なんですよね。

大きな戦略や大きな成長をするとき、ひとつの指標だけで解決する方法は危険です。それを防ぐためのものでもあります。

人間もどれだけ筋肉を鍛えようが、重要器官が患ってしまったら致命傷になってしまいます。ひとつの筋肉、臓器だけがパワフルに動いていることはほぼ意味がない。体のすべてが普通に動いていることのほうが、はるかに意味があります。プラットフォーマーたるものは、そのことを意識してエコシステムをつくるべきです。

ウェブサービスは生態系だ

石坂さん:深津さんはよく「エコシステム」「生態系」にたとえて話をされますよね。

談笑する深津さん

深津さん:こういったロジック図を描くときに大切なのは、サービスを生態系、つまり複雑な物事として考えること。生態系の場合、ひとつの要素にフォーカスするよりも、「全要素が相互接続されていること」のプライオリティーのほうが高いので。

先ほど紹介したように、人間の身体もおなじ。

1点突破では生物は存在できない。長生きするために大胸筋だけを鍛えても意味がないですよね。単体の臓器をどんなに鍛えても、一番不健康な部分が壊れたら死んじゃうんです。

加藤さん:ダイエットでも体重という指標だけを追いかけがちだけど、本当はもっといろいろな数値を見なきゃいけないわけじゃないですか。よくあるダイエット法のように、ひとつの食品だけ食べても、だいたい失敗する。

深津さん:つい、わかりやすいほうに飛びつきたくなってしまうんです。わかりやすいものだけに飛びつくとほぼ確実に失敗することは、私生活で痛感しているはずなのに。

石坂さん:頭では理解していても、実践するのがなかなか難しい話ですよね(笑)。特にnoteのような巨大サービスになると、グロースモデルができた当初よりも「自分はどこに効く施策を担当しているんだ」ということが見えにくくなります。

加藤さん:「理解」と言うから難しく感じるのかもしれません。「複雑なものとして受け入れる」というか。

深津さん:そもそも「バランスを整える」という概念そのものが難しいですからね。翻訳が必要なのかもしれませんね。

大きなグロースモデルを具体的なアクションに落とし込んでいくような。リーダーやマネージャーが中心となって、世界地図、日本地図、自治体ごとの地図……みたいにブレイクダウンしたバーションはあるべきだと思います。

心臓外科医がいてもいいし、脳外科医がいてもいい。でも、患者さんの全身ケアは総合医師、つまりPdMが行なうのがおすすめです。

グロースモデルを味方につけよう

真剣に話す、石坂さん

石坂さん:「いまこの具合が悪いので重点的にケアしますよ」という設計をしっかりやらないと、現場レベルでは把握しづらそうですね。そのあたりは、ある程度ぼくのほうでやっていきたいと思っています。

余談ですが、実はぼくの入社の決め手のひとつがグロースモデルだったんです。

加藤さん・深津さん:え(笑)??

石坂さん:厳密にいうと、グロースモデルとそれをつくったひとたちに興味があったんです。もともと人材マッチングやスペースマッチングの仕事に携わった経験があったので「SNSが発達したいまのビジネスモデルには、リボン図モデルよりもこっちだ」と思いましたし、同時に「デザイン思考がないと生まれないモデルだ」と思いました。

「それをつくったのはどんなひとたちなんだ?」と興味を持ったのがきっかけでしたね。

深津さん:今回話をしてみてどうでしたか?

石坂さん:グロースモデルはバランスをとることが目的のものです。複数の指標が登場するので、単一のKPIだけを見るよりはどうしても複雑な印象になります。

規模が大きくなってきたいまのnoteで、グロースモデルをどのように現場の目標に落とし込むとみんなにとって仕事がしやすくなるのかを日々考えていましたが、今日のお話を聞いて道筋が見えてきました。

深津さん:それはよかった。

石坂さん:最後に、今後のnoteの成長戦略についても教えてください。

深津さん:ズバリ「発見性」ですね。noteとしていいクリエイターが集まり、いいコンテンツが増えてきてストックもできていると思います。一方で読者は「Twitterでバズっていたので読んだ」みたいなアクセスが多く、ストックというよりもフローが増えていく。

グロースモデルの右側(読者が集まる)を強化したいことを示す図

加藤さん:このままだとクリエイターやコンテンツの伸び率のほうが高くなっていきます。図でいうところの左側ですね。だから、いまは右側にある程度の比重をかけて、より多くの読者に届き、読んでもらえる仕組みをつくっていくことが重要だと捉えています。

深津さん:開発以外の部分だとコミュニティですね。最近「創作をまなびあう会」というnoteの公式コミュニティがスタートしましたが、かなり盛況です。プラットフォームにいる仲間の存在や、仲間とのつながりが深まることでSTAYしようという気持ちが高まるのではないでしょうか。

加藤さん:いろいろと施策を考えていますが、グロースモデルのおかげで「何のためにやっているのか」がみんなに見えるから、すごく健全ですよね。今後も上手に活用しながら、noteを成長させていきたいと思います。



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Text and Photo by 田中嘉人

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