価値観を共有できる「身内」を世界の裏側まで広げていく。#BASEとnote 代表対談
2021年1月、noteとBASEは資本業務提携を結びました。その背景にはどんな想いがあるのか。「ファンを巻き込むブランドづくり」をテーマに開催した配信イベントにて、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太さんとnote CEOの加藤貞顕が語り合いました。モデレーターは、小売りや店舗を軸にしたコミュニティ運営も行うnoteプロデューサーの最所あさみが務めました。
クリエイターの創作活動をもっと応援するための提携
ーまず、今回の業務提携の背景についてお伺いします。それぞれが自前で、EC機能、発信機能をつくるのではなく、お互いに補完し合う選択をしたのはなぜでしょうか?
鶴岡 裕太 / BASE株式会社 代表取締役CEO
鶴岡:個人的にもnoteが大好きで、最初は僕からお声がけさせていただきました。BASEとnote、アウトプットは違いますが、本質的にやっていることは同じだと思っています。
つくる人たちを応援しサポートする。その役目を果たすために、世界中の人たちに使っていただけるプロダクトにすることを考えると、一社では難しいと思っていて。noteと同じ機能を今から自社でつくって、noteに勝てるかと言えば、可能性はゼロに近い。だったら、同じ価値観を共有するスタートアップ同士、それぞれが持つ機能を補完し合うほうが、より早くより大きく成長できると思ったんですね。
加藤:僕らがやっているのは、クリエイターのみなさんが表現しやすい場所をつくって、創作活動のお手伝いをすること。鶴岡さんがおっしゃるように、noteはコンテンツでBASEはお店、表現の仕方は異なるけれど、根本的な価値観はかなり似ている。だから、提携の話もスムーズに進みました。
逆に僕らがEC機能をつくるのは現実的ではないし、結局クリエイターのためにはならない。それぞれが持っている力を生かしたほうが、クリエイターのみなさんの役に立てる。それが今回の提携の背景にある根本的な考え方です。
noteとBASEをシームレスにつなぎ、より使いやすく
ーnoteにはもともとECプラットフォームの商品カートページを表示できる機能がありますが、クリエイターのために、よりEC機能を強化していくんですね。
加藤貞顕 / note株式会社 代表取締役CEO
加藤:そうですね。ただもちろん、BASEやnoteだけを使ってね、と制限するわけではありません。
鶴岡:今回、僕らがnoteと提携したことで、他のECプラットフォームとnoteはどうなるの?というご質問もいただいているようですが、BASEだけを使ってもらうわけでは一切なくて。排他的な考えとは真逆で、よりオープンに、一つのプラットフォームで囲い込むことなく、クリエイターのみなさんをサポートしていきたい。あくまでそのための選択肢の一つだと思っています。
ー具体的には、両社でこれからどんなことをやっていきたいと考えていますか?
加藤:最初に取り組みたいのは、双方のプラットフォームの行き来をしやすくすることです。UX上で、noteでBASEのストアを見せやすくする、BASEでもnoteのコンテンツをつくりやすくする。
鶴岡:すでにBASEにはnoteのストアタブにショップを表示できる拡張機能「noteストア」があるんですが、noteで書いた記事をBASEで開設したショップに表示したり、まだnoteを使っていない人が新たに使うようになったりする連携はないんですね。今後はクリエイターも購入者も、新たに始めたり知ったりできるような、シームレスな連携ができるようにしたいですね。
ーBASEとnoteがそれぞれ存在していたところに渡り廊下をつくるような感覚だったのが、よりシームレスに使いやすくするための開発を一緒に検討していけるわけですね。
加藤:あとは、noteにはショッピングという買い手や売り手のひとが商品やブランドへの思いをつづった記事をあつめたメディアがあるんですが、インターネットでのショッピングをもっと盛り上げるという文脈で、BASEと一緒に充実させていきたいです。
つくり手の思いや日常を発信することでファンをつくる
ーすでにBASEとnoteをうまく使っているクリエイターの方々もいらっしゃいます。事例をご紹介いただきながら、成功ポイントについても教えていただけますか。
加藤:たとえば、イラストレーターのサタケシュンスケさん。noteでは、考え方や活動について幅広く書かれていて、ストアでは、作品集やキーホルダーなどのグッズを販売されています。
noteがサタケさんのインターネット上の本拠地のようになっているんですね。考え方や活動を伝えて、ファンになってくれた人に作品を販売する。こうした連携は、参考になると思います。
ーお店を始めると、どうしても商品のことを書かなきゃと思ってしまいがちですが、イラスト以外のことやご自身のことを書いているのが興味深いですね。
加藤:それから、愛媛・八幡浜のみかん農園、濵田農園さん。どんな想いで親から継いだのか、つくる人の考え方や商品の良さを伝えたうえで、ストアで販売もしています。オンラインだけでなく、ワークステイを募集するなど、コミュニティの起点としてnoteを使い、お店としてBASEを使っていらっしゃいます。
加藤:あとは、油そばを販売する柿川亭の店主、まさとしさん。もともと高校教員だった方で、飲食店を開業するところからnoteを書いて、油そばをストアで売っています。
鶴岡:柿川亭のまさとしさんは、オープン前から毎日noteを書かれていて、材料の解凍を忘れちゃいましたとか、テレビに取り上げられましたとか、日常の出来事を読んでいると成長の過程がわかるんですよね。1・2本読むだけではなくて、毎日少しずつ物語として体験していくうちに、気づいたらファンになっているんです。
商品の説明だけでは伝わらない、つくり手の想いや日常、本来は友だちくらいの距離じゃないと知り得ないこと。自らそうしたストーリーを書いて、より多くの人と接する機会を増やして、ファンをつくる。対面しなくてもつくる人と買う人が関係性を築くことができるんですね。EC単体ではできないことなので、そこにnoteと連携する価値があると思っています。
インフラ的な本拠地としてBASEとnoteを活用する
ーBASEではやはり、noteやほかのSNSを活用しているほうがファンづくりができている感じでしょうか?
鶴岡:そうですね。BASEはあくまでネットショップをつくる決済機能を担う役割なので、単体で機能するものではないんです。BASEでお店を持つ人は、GoogleやFacebookからお客さんを呼び込まないといけない。いろんなプラットフォームとの関係性で成り立っている場所なので、SNSは積極的に活用してほしいですね。
特にnoteは、自分たちの想いをしっかり伝えるために大事なツールだと思っています。
加藤:まとまった自分の考えを伝えるには、ストック性のあるnoteは相性がいいと思います。
たとえば、「名刺って、今の働き方に必要か?」という問いから、極小極薄のレザー名刺入れを開発・販売しているDaisuke Tsuzukuさん。新しい時代に、今までなかったものを販売するには必ず説明が必要です。noteには問題提起から開発秘話までじっくり書くことができるんですね。
ーストーリーに沿って、購入しやすくなりますね。ECサイトには書ききれないし、Twitterの140字、Instagramの一枚の写真では伝えきれない。
鶴岡:僕としては、BASEとnoteはボトムにあるインフラ的なもので、それらを広げていくためにTwitterやInstagramがあると考えています。全部が横並びにあるわけではなくて、違うレイヤーで、それぞれのツールを使って一つの自分の世界として構成して伝えていく。
加藤:僕も同じ考えです。自分の分身のようなかたちで、本拠地としてnoteを使ってもらって、つくったものを売る場所はBASE、集客にはTwitterやInstagramを活用していただくのが良いかと。
地球の裏側にもいる「身内」との関係性を育む
鶴岡:僕は最近、何かをつくっている人がかっこいいと思っていて、すごくリスペクトしています。僕が2020年に買ってよかったものも、インフルエンサーのような最先端にいる人が体験し紹介したものより、「身内」のために課題感を持ってつくられたものなんですよね。
加藤:「身内」は購買行動においてキーワードになりそうですね。昔、『僕がワイナリーをつくった理由』という本の編集を担当したことがありました。著者の落さんは、いまは北海道で「OccciGabi」というワイナリーを経営しているんですが、彼に聞いたんですよ。「たくさんワインをつくって、全国に売って儲ける気はないんですか?」って。そしたら落さんは「地域に喜んでくれる人がいる、彼らにしっかり売ることができればそれで十分だ」と。もともと、造り酒屋やワイナリーって、地域で身近な人、つまり「身内」に売るビジネスなんですよね。
今は、インターネットによってその「身内」が広がったのかもしれませんね。発信することで、自分の趣味嗜好、価値観が共有できる新しい「身内」と出会えます。
鶴岡:僕らは、BASEを使ってくれている人たちは、自分の人生を自分で決めるオーナー権を持っている人たちだから、「Owners(オーナーズ)」と呼んでいます。Ownersはそれぞれの価値観を持っているので、ワイナリーの方と同じように、中には拡大することを目指さない人もいるんですね。
加藤:「身内」って狭いというわけではなく、自分と価値観を共有できる人、気持ちのいい関係性の中で理解し合える人ということですよね。
鶴岡:ですです。理解されない人にまで無理に売らなくてもいいとオーナー権を持つ人が増えてきているのは、インターネットによって「身内」が広がっているから。地球の裏側までもが「身内」になる可能性があるんですよね。
ーそう考えると、もっと売れる、もっと読まれるためにはどうすればいいですか?という質問もありますが、まずは価値観が近い身内に届けていくことを考えるのがよいのでしょうか。
鶴岡:BASEはもともと、地元の大分で婦人服のお店をやっている僕の母親がネットショップをしたいと相談してきたことが始まりなんです。その時は大手ショッピングモールをすすめたのですが、いきなりハードルが高いと言うので、より簡単に始められるものを自分でつくってみたんですね。
自分の身近にいるたった一人の存在をきっかけにつくったプロダクトが、今では130万を超えるショップに使ってもらえるようになった。その過程で、ビジョンも研ぎ澄まされて、今は世界中の人たちに使ってほしいと思っています。なのでまずは、自分の身内に届けていくことが、はじめの一歩なんでしょうね。
加藤:自分の身内につくったものが、広がりを持っていくためには、インターネット上に置いておく必要があるわけですよね。身内を広げていくためにも、自分がつくったもの、その背景にあるエピソードや考え方を、発信していくことはやっぱり大事ですね。
人とコンテンツ、お店が出会う機会を増やしていく
ーでは、最後にそれぞれ、一言ずついただけますか?
加藤:BASEには130万のショップがあるということですが、ECをされている方々が改めて発信について考えるきっかけになれば嬉しく思います。自分たちでコンテンツをつくるのが難しいという方は、noteの中でライターさんを見つけていただくこともできると思います。ぜひ気軽に試してみてください。逆に、noteのクリエイターにもお店を開いて作品を販売するという活動の仕方もあることを知ってほしいですね。
僕らはこれから一緒にもっと、クリエイターのみなさんの創作のお手伝いをしていきます。
鶴岡:個人や小さなチーム、オーナー権を持ってつくる人が、インターネットを通じて自分を表現し、創作を続けて世の中の主役になっていく。それは、僕らが頑張って、BASEやnoteをよりいいものにすることで実現できることでもあると思っています。
今回、提携までに加藤さんはじめnoteのみなさんとお話しする過程で、そうした価値観を共有できる「身内」に出会えたことが嬉しかったです。BASEもnoteも、5年10年スパンでは今よりもはるかにいいプロダクト、プラットフォームになって、つくる人たちを支えていると思います。日本ではトップレベルでオーナーやクリエイターの力を信じている2社であることは間違いないので。まだまだ物足りないこともあると思いますが、ご意見もいただきながら、いいプロダクトにしていきます。ご期待ください。
ーありがとうございました。つくる人たちを応援しサポートすることを使命とする会社同士、発信と販売をシームレスにつないで、販売体験、そして身内の経済圏をより豊かにしていく。今後にこうご期待、ということですね!
text by 徳 瑠里香
本イベントの動画は、以下からもご覧いただけます。