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ダークパターンが生まれにくいデザインプロセスとは。クリエイターファーストのUI・UX設計

ユーザーにとって心地よいプロダクトを生みだすには、なにが重要でしょうか?
自社の利益を優先するあまり、ユーザーを誤解させるような「ダークパターン」(※)と呼ばれる設計を生まないことも、ひとつの大切な要素です。

※ダークパターン…… ユーザーを企業の有利な方向へと誘導するように設計されたウェブサイトなどのインターフェースデザインの総称。最近ではDeceptive Patterns(欺瞞的なパターン)とも呼ばれる

この記事では、note社でCDOを務める宇野雄うの ゆうさん、プロダクトマネージャーとして、noteの開発に携わる大内田喜一おおうちだ よしかずさんに取材。「ユーザー体験を第一に考えれば、結果的にダークパターンは生まれにくい」と話すふたりに、デザイナー・プロダクトマネージャーとして大切にしているポイントやABテストで重要な視点について、くわしく話を聞きました。


社員もユーザーのひとり。フィードバックで問題点を浮き彫りに

——昨今、世界的にさまざまな企業で「ダークパターン」への議論や対策が進んでいます。noteでは何か対策をしているのでしょうか?

宇野 現在noteでは、特にダークパターンに絞った対策はしていません。ですが、結果的にダークパターンが生まれにくい環境になっていると、感じています。

——「結果的にダークパターンが生まれにくい」とはどういうことでしょうか?

大内田 次の3つの要因のおかげで、自然とnoteではダークパターンが生まれにくい環境になっていると思うんです。

1つめは、我々のサービスは基本的にCtoC領域で、社員全員がユーザーになり得るという点です。社員みずからがクリエイターとしてコンテンツを投稿でき、さらには読者としてもたのしめる。だからこそユーザー視点で、プロダクトに対するフィードバックをもらえる。僕はこれが最大の強みだと思っています。

大内田さんの写真

大内田 喜一(おおうちだ・よしかず)
2013年にLINE株式会社に入社し、法人向けの営業・事業開発・マーケティングを担当。退社後、オフショアでエンジニア、スタートアップでの事業開発を経て、2018年12月よりBASE株式会社でEコマースプラットフォーム「BASE」の企画・ディレクションを担当。2022年10月にnoteに入社し、プロダクトマネージャーとして、noteの開発に携わる。


——なるほど。社員がユーザーとしてプロダクトを利用するということは、ダークパターンを生み出した場合、社員にも跳ねかえってくるわけですね。

大内田 はい。これは2つめの要因にもつながるのですが、noteでは新しい施策やカイゼンをリリースするとき、事前にABテストをすることが多いんです。テスト段階でプロダクトチーム以外にも、PR・法務・CS(カスタマーサポート)などの確認が入り、それぞれの役割から意見が出てきます。この段階で、懸念点をあぶりだすことができ、全体リリース前に修正をかけられるんです。

ABテストを実施している点も、やはりダークパターンを生みにくくしている要因だと考えます。この時点で一部のユーザーから意見をいただくことも多く、全体反映時にはそういった利用者の生の声を活かすことができるんです。

宇野 noteでは社員の行動指針であるバリューのひとつに「クリエイター視点で考えよう」があります。ユーザー視点に立つことは、社内の文化としても根付いているのかもしれません。

——続いて3つめの要因を教えてください。

大内田 3つめは「よい数値ほど最悪のケースを疑う」という習慣があることです。先述のようにnoteではABテストを行うことが多いですが、その結果だけを信じて意思決定をしていません。たとえばあるボタンのクリック率が高い場合、「本当に評価していいのか、ユーザーが誤ってボタンをクリックした可能性はないか」と疑うんです。この具体例に関しては、後ほど事例を交えてお話できればと思います。

——ありがとうございます。ダークパターンを生みだしにくい要因を3つ挙げてもらいましたが、宇野さんもCDOとしてリリース前のプロダクトに目を通す機会が多いですか?

宇野 そうですね。弊社ではSlackに、全社すべてのデザインが集まるチャンネルがあり、そこで意見をもらえる体制になっています。僕に限らず、基本はみんなが自分の担当案件以外も、興味を持って見ていますね。そこでさまざまな事例を学んでいるので、これもまたダークパターンを生みにくい要因のひとつかもしれません。

宇野さんの写真

宇野 雄(うの ゆう)/執行役員 CDO
制作会社やソーシャルゲーム会社勤務の後、ヤフー株式会社へ入社。Yahoo!ニュースやYahoo!検索などのデザイン部長を歴任し、その後クックパッド株式会社でVP of Design/デザイン戦略本部長を務める。2022年2月よりnote株式会社 CDOに就任。東京都デジタルサービスフェローの他、数社でデザイン顧問/フェローも請け負う。
著書に『はじめてのUIデザイン(PEAKS)』『フラットデザインで考える 新しいUIデザインのセオリー(技術評論社)』など。


「よい数値ほど最悪のケースを疑う」具体的な事例

——ここからは具体的な事例について、お話を聞かせてください。先ほど大内田さんが挙げた「よい数値ほど最悪のケースを疑う」というのは、具体的にどういうことでしょうか?

大内田 先日社内で議論した「シェアボタン」に関する例を挙げたいと思います。現状スマートフォンからnoteを見ると、画面の左下にX・LINEといった複数のSNSへのシェアボタンが常に表示されています。この複数のシェアボタンを固定するUIは、実はnoteではクリック率が高いんです。

スマートフォンでnoteをみたときのシェアボタン。X・LINE・その他のシェアボタンが並んでいる。
スマートフォンでnoteをみたときのシェアボタン

大内田 一方で僕のチームの仮説では、ここからSNSでnoteの記事が拡散された割合は低いのではないか?と考えていました。実際に一部のユーザーから「シェアボタンがずっと表示されているので、記事が読みにくい。何とかならないか」という声もあったので、シェアボタンをひとつに統合し、検証することにしたんです。

実験にテストしたUIの一部。シェアボタンを一つにまとめて簡略化している
実験にテストしたUIの一部

結果的には複数のシェアボタンを用意した以前のままのほうが、クリック率はよい傾向でした。しかし、誤クリックを誘発している可能性を検証するために、ボタンクリックごとに特定のパラメータを用意し、シェアされたURLからnoteへ流入した数がどれだけあるかを分析しました。

すると、シェアボタンをシンプルに統合したUIと、ほぼ同じぐらいか、シンプルに統合したほうが数値がよい可能性があることがわかったんです。つまり、仮説どおり以前の仕様は誤クリック誘導による過大評価の可能性が高いということになります。まだこの取り組みは検討段階ですが、シェアボタンを統合する方向で社内では議論が進んでいます。

宇野 これは僕としても、非常にいい話だと思っています。というのも大内田さんは、本来数字を上げる役割を持ってる人なんですよ。一般的に数値目標を持っていると、そこにフォーカスした施策を優先してしまうことはよくあるはずです。しかし、目の前の数字だけにとらわれずに、ユーザーのことを第一優先に考えた指標を新たに設定して意思決定をしているんですよね

大内田 数字だけを追っていると、派手にオブジェクトを赤くしたり大きくしたりしがちですが、結果的に未来の自分たちの首を絞める可能性もあるので。ダークパターンが生まれない理由は、そもそも自分たちにとっても、よいことが起こらないからなんだろうなとは思います。

向き合って話す宇野さん、大内田さんの写真

——確かに。おおきな視点で考えると、ダークパターンは将来の自分たちを苦しめるかもしれないですね。ほかにも事例はありますか?

大内田 ダークパターンとは少し文脈が異なるかもしれませんが、「新作フォロー通知」という機能に関する事例をお話しします。この機能はフォローしているクリエイターが、新しい記事を公開したときにメールでお知らせが届くというものです。

みなさんもご経験があると思いますが、日々多くの企業からメールが届きますよね。そのなかで、いかにメールに気づいてもらえるかを検討していました。

そこで他社の法人向けサービスのメルマガなどを調査したところ、件名に絵文字を入れているパターンが多いことに気がつきました。基本的にメールBOXは、白黒の世界。そこに色味のある絵文字があると、確かに視点が誘導されます。という流れで、noteでも挑戦してみることになり、下記のように件名の冒頭に絵文字を置いてみたんです。すると、やはりメールの開封率が伸びました。

件名の冒頭に絵文字が入っている通知のイメージ画像
リリース前に取り下げた実際の新作フォロー通知

その後、全体リリースするかどうかを検討しはじめました。しかし、さまざまな部署との話し合いのなかで「件名の絵文字も含めてクリエイターのコンテンツだと勘違いされないか」「クリエイターが伝えたい印象と異なるものになっていないか」という意見が出ました。

実際のテストで得られた数値の改善率なども踏まえたうえで、クリエイターのコンテンツを毀損するリスクを考慮し、全体リリースは見送ることになりましたね。

ユーザーを第一に考えたプロダクト開発

 ——さまざまな事例をお聞きして、noteでは「クリエイターを第一優先に考える」というのが伝わってきました。

宇野 noteはやはりクリエイターがいるからこそのプラットフォームであり、クリエイターが作成したコンテンツを尊重することがもっとも重要です。

そのためクリエイターのコンテンツに手を加えずに、快適に活動できる環境を保つことが、最終的にはnoteのサービス成長にもつながると考えています。社内のみんなもPVやGMV(流通取引総額)は、結局こういった些細なことを積み重ねた「結果指標」だとわかっているんですよね。

大内田 僕も宇野さんと同じ考えです。noteのプロダクトの性質上、クリエイターを大切にすることがサービスの成長にもつながりますし、クリエイターのことをいちばんに考えてサービスをつくりたいというのが、僕の根底にもあります。それは社内でも共通認識があり、結果的にダークパターンを生みだそうと考える人がいないんです。

——困ったときにいつでも意見を聞ける場所があるというのも、クリエイターファーストでいられる秘訣なのでしょうか?

大内田 そうですね。先ほど話に挙がったSlackでの相談以外に、週に1・2回の定例会議があります。その場はCEOの加藤さんやCXOの深津さん、CDO宇野さんを中心とした方々からフィードバックがもらえる機会であり、各メンバーにとって非常に有益な場となっているんです。

フィードバックの内容としては、テキストの細部に関する部分もあれば、大局観をもった核心を突くものまでさまざまです。

たとえば、よく「その企画は、noteのなかだけで盛り上がっていない?そのクリエイターのいるマーケットやカテゴリーごと、盛り上げられる企画になっている?」 というフィードバックがありますが、この視点はプロダクト以外のPR・新規事業などでも注意が必要ですよね。

これらの意見を聞く過程で、より深くクリエイターのことを考えた設計をしようといった雰囲気になっていると思います。

宇野 基本的に企業は、事業のKPIとユーザー体験の両方を向上させることが必要で、一方だけの成長を目指すわけにはいきません。このバランスを見つけるのは難しいですし、意図せず相反するものにもなりがちですが、ユーザー体験が向上すれば、結果的に事業成長につながる。noteはそれが実現する稀有なプロダクトだと思いますし、本気でそう信じているからこそ、これまで成長を続けられたと考えます。

noteはさまざまなクリエイターが集まり、思い思いに居心地よくすごす、いわば「創作の街」を目指しています。「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」という僕らのミッションを追い続ける限り、それはずっと変わりません。

今後もクリエイターを最優先に考え、魅力的なプラットフォームを目指していきたいです。

——本日はありがとうございました。


photo by 玉置敬大 text by 須賀原優希


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