noteディレクターの仕事とは?「自分以外の誰かが輝くように」百戦錬磨のふたりが、noteで見つけた使命
スタートアップは20〜30代の若い社員が活躍しているイメージがあるかもしれません。しかしnoteディレクターとして活躍しているのは、そのようなメンバーだけではありません。会社によってはベテランと呼ばれるような40代も、新たなチャレンジとしてnoteへの転職を決めています。
今回登場するのは、前職はニュースメディア「BuzzFeed Japan」でデスクを務めていた鳴海淳義さんとTV番組・CM・ミュージッククリップなどのさまざまな映像作品の演出・プロデュースを手がけてきた荒木俊雅さん。
クリエイティブの最前線で戦ってきたふたりは、なぜnoteへの挑戦を決めたのでしょうか。鳴海さん、荒木さんが年齢を重ねて辿り着いた「使命」とはーー。
年齢を重ね、仕事の主語が「自分」から「誰か」へ
——鳴海さんであればWebメディアの記者や編集者、荒木さんであれば映像作品の演出家、プロデューサーなど、これまでも自分の好きな世界で生きてきた印象を受けます。なぜnoteへ転職したのでしょう?
鳴海淳義/noteディレクター
CNET Japanなどのテック系媒体で記者を経験した後、LINE(当時のライブドア)に転職。ブログメディアやニュースアプリの編集に携わる。その後、BuzzFeedのエディターなどを経て、2020年にnoteへ入社。著書に「やせたいならコンビニでおでんを買いなさい 」(日経BP社)など。note
鳴海さん:シンプルに「発信することの楽しさ」を広めたかったからです。
ぼくはこれまでWebメディアの記者やニュースアプリの立ち上げなどを手がけるかたわら、趣味としてブログやNAVERまとめ、ポッドキャストなどで情報を発信してきました。仕事だけではなく、プライベートの時間も情報発信に充てていた理由は、「楽しかったから」にほかなりません。いまの人生で「楽しい」と感じることの半分以上は情報発信がきっかけです。
自分がそうだったように……という言い方はおこがましいかもしれませんが、「より多くのひとに情報発信の楽しさを広める仕事がしたい。スポーツやグルメを楽しむのと同じように、自分の発信を楽しんでほしい」という気持ちが強くなってきていました。
——noteのミッション「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」に通じる部分ですね。
鳴海さん:最初からnoteに興味があったわけではないんです。以前はnoteのことをただのブログサービスだと思っていましたし、なんなら怪しい印象も抱いていました(笑)。
でも、2019年頃からCXOの深津貴之さん、PRの森本愛さんなどの発信によってnoteに対する共感度が増していきました。自分がやりたいことを叶えるためには、記者や編集者のキャリアを続けるのではなく、noteのミッションに沿う道がある。そして、「自分のキャリアがnoteで役に立つのではないか」と感じ、転職を決めました。
あと、年齢的な部分も大きいですね。40歳を過ぎたあたりから自分の発信が評価されるよりも、自分以外の誰かが評価されることにモチベーションがシフトしていきました。
たとえば、ぼくは2015年からポッドキャスト番組を配信していて、そのノウハウを「Podcastを始める方法」というnoteにまとめています。それを読んだ方が「鳴海さんのnoteを見てポッドキャストを始めました」というメッセージと一緒に番組のURLを送ってくれることがある。すごく嬉しいんですよね。
これまでは「俺の話を聴いてくれ」というマインドでしたが、年齢を重ねるとともに自分が培ってきたものをいろいろな人に教えて、もっといいものが世の中に発信されることに喜びを感じるようになってきました。
荒木 俊雅/noteディレクター
さまざまな映像作品の演出・プロデューサーとして活動。近年はNHKやEテレで、ドキュメンタリーやアート系コンテンツの制作に参加を続けている。noteでは芸能・エンターテイメント分野を中心にクリエイターのサポートを行いながら、イベントや配信番組のディレクションも担当。note
——荒木さんはいかがでしょう?
荒木さん:わたしは「これまでプラットフォーマー側にいたことがなかったから」という部分が大きいかもしれませんね。
25年にわたって映像業界に身を置いて、最近ではNHKやEテレのドキュメンタリーやアート、教育コンテンツの制作に携わってきました。TV番組だけではなく、コマーシャルやアーティストのビデオ作品なども手がけ、ある程度多くの方たちに自分の作品を観てもらう経験はしてきたと思います。
それはそれで楽しいのですが、数多くの現場を経験し、自分の興味が「ヒット作品をつくりたい」から、「カルチャーそのものをつくりたい」に変化していきました。プラットフォーマー側に居場所を移す必要性を感じたのはそのときです。
ただ、「プラットフォームだったらどこでもよい」というわけではありません。noteに関心を抱くきっかけとなったのは、2019年に開催されたテレビ東京との連動企画「#100文字ドラマ」コンテストです。「100文字にすることで応募のハードルを下げて、幅広くアイデアを集め、テレビ東京のプロフェッショナルたちがフィニッシュを決める」というフォーマットはとてもよくできているし、これほどのスケール感の仕事ができるのもプラットフォームだからこそ。たまたまnoteがディレクターの募集をしていたので応募しました。
——映像業界からWeb業界への転身になるわけですが、noteディレクターという職種についてはどのように考えていましたか?
荒木さん:noteディレクターの仕事は「クリエイターの才能を引き出して輝かせること」です。私がいた映像業界ではプロデューサーが主にその仕事を担います。
エンタメ業界とnoteの違いを挙げるとしたら、分母の大きさですね。芸能事務所だとどれだけ大きくても所属タレントは数百人ですが、noteには約500万のアカウントがあります。見つけ出すことは大変ですが、いままでにない才能も当然眠っているわけで。プロデューサーとしての「才能を発掘したい欲」みたいなものは日増しに強まっています。
難易度は高い。だから、おもしろい
——入社後、想定していた働き方はできていますか?
鳴海さん:まず、楽しさは感じています。ぼくらが企画した投稿企画やイベントをきっかけに届く「初めてnoteを書いてみたら、思ったより多くの人に届いた」「出版社から声をかけてもらって書籍化が決まった」といった喜びの声はすごく嬉しいです。これまでは自分の記事が読まれたり、シェアされたりすることが嬉しかったけれど、自分以外の誰かにやってもらって、その人が評価されるというのはより難易度が高いですからね。嬉しさの質が違います。
noteディレクターの役割は多岐にわたっていて、たとえばお題を出して書きやすくしたり、お題に沿って書くときのガイドラインになるような講座を開いたりしているのですが、少しずつコツがつかめてきました。
編集の考え方と同じなんですよね。関係者やクライアントにメリットを提供しつつ、読者がおもしろいと思えるコンテンツをつくるためにバランスを取ることが編集者の役割ですから。
投稿企画を考えるにしても、お互いのメリットを設計して企画に落とし込むところは、これまでの経験が大いに活かされる点だと思います。逆にそれぞれがきちんと結びついていないと成果は生まれないし、そうなると、その後の関係も続かないですからね。
——荒木さんはこれまでの経験で、noteのディレクターの仕事に活きている部分はありますか?
荒木さん:鳴海さんのように編集業務に携わった経験はありませんが、数多くの脚本の構成や執筆などに関わってきたので、テキストの良し悪しはわかるつもりです。そういう意味では、“読む力”は必要かもしれませんね。クリエイターの作品を読んでアドバイスする機会は多いので。
もう少しわたし個人にフォーカスすると、映像化やマンガ化したときの見え方や制作時の予算感などもわかるので、全体を見据えた提案ができる点は強みのひとつかもしれません。
わたしは、noteディレクターとしてクリエイターのみなさんにきちんと“出口”を用意したいと思っているんです。もちろん黙々と書くこともいいのですが、その先にたとえば「ドラマ化」「書籍化」といったメリットがあればモチベーションになるし、世の中にとっては新しい才能の発見にもつながります。
クリエイター、世の中、そしてnoteにとって「三方よし」となるのが理想です。noteでは投稿企画やイベントなどは常に開催されていますが、もっともっと増やしていきたいですね。
——鳴海さんの場合はいかがでしょう?
鳴海さん:キャッチーなタイトルを考える技術は活きているかもしれませんね。前職で若いメンバーから記事タイトルの相談を受けたら、すぐに「こうしてみてはどうか」とフィードバックしてきたので。社内でいきなり「この企画にタイトルつけてくれませんか?」と言われてポンと打ち返しているのですが、採用されているかは別にして壁打ちの相手にはなれていると思います。
「新たな試みには一枚噛んでおきたい」
——noteで働くことに不安は感じませんでしたか?
鳴海さん:ぼくはまったくなかったですね。そもそも転職自体には肯定的ですし、実績がリセットされることもあまり気にしていない。それよりもいろいろな会社でいろいろな人たちと働く方に楽しみを見出しているので、不安よりもワクワクしかないです。
特に最近のnoteは創作で生計を立てられるような人気クリエイターが生まれ、新たな経済圏「クリエイターエコノミー」が誕生しています。試みとしてはとても新しいですよね。新しいチャレンジには一枚噛んでおかないとガマンできない性格なので(笑)。
荒木さん:わたしはnoteがパラレルワークOKなのが大きいですね。クリエイターの発掘にも興味はありますが、自分のクリエイティビティを発揮したい欲求はまだあるし、映像制作にも引き続き関わっているので。精神的な安寧のバランスを取る意味でも、パラレルワークOKの環境は大事です。
——鳴海さんは、荒木さんのように「自分のクリエイティビティを発揮したい欲求」はもうないんですか?
鳴海さん:そういえば、何かしらの記事を書きたい欲求は減ってきていますね。たぶん、noteの仕事をしているおかげで、クリエイティブな活動をしたい欲が満たされているからだと思います。特に前職の「BuzzFeed」では年齢的に若手のマネジメントを任されていたのですが、noteは20代の同僚たちと一緒に企画書を出して、代表の加藤さんからフィードバックをもらって……みたいな仕事をしているわけですから。ぼくにとってプレイヤーとして注力できるのは、10年ぶりぐらいなのでとにかく楽しい。最近自分のnoteを書いていないのも、そのせいでしょうね(笑)。
——荒木さんは20代のメンバーと肩を並べて働くことに、戸惑いはありませんか?
荒木さん:まったくありません。むしろみんなフランクで、とても楽しいです。若いのに懐の深いメンバーが多いですし、変なことで目くじらを立てるような人も少ない。みんなでコミュニケーションを取りながら仕事する部活ノリのような雰囲気が好きなんですよね。もちろん会社としてはブラッシュアップしていくべきですが、わたし個人としては嫌いではないです。
鳴海さん:教えてもらう機会も多いですからね。知らない言葉とか、自動化ツールの使い方とか。ぼくや荒木さんは「よくわからないから、やっていただけないでしょうか」とお願いするばかりですが。
荒木さん:考え方の違いも勉強になりますよね。キャッチアップのスピード、深さ、角度がわたしたちとはまったく違うので。一方で、わたしたちが「90年代にこういうバンドがいてね……」と話しても全然受け入れてもらえない寂しさもありますが(笑)。いずれにせよ、ジェネレーションギャップはおもしろいですよ。すごく多様な組織です。
誰もnoteを真似できない
——おふたりのようにnoteディレクターとして活躍していくための条件とは何だと思いますか?
鳴海さん:自分なりの方程式があることですね。そして、ひとにわかりやすく伝えられること。noteディレクターの役割は、クリエイターをサクセスさせることです。そのためには、自分に成功体験がないとダメなんです。借りてきた言葉ではなく、自分の経験に裏付けられた理論です。
ただ、決して特別なものではありません。どんな仕事でも5〜10年やれば何かしらのノウハウが蓄積されますよね。自分が試行錯誤しながら積み重ねてきた方程式があるのであれば、noteには活かせるチャンスが多いと思います。特に編集者は自分の経験を一般化する力が求められますから、素養があるのではないでしょうか。
荒木さん:わたしは先ほどの繰り返しになりますが「プロデューサーをやりたいひと」ですね。才能を発掘したい気持ちがあるのであれば、従来のメディアよりもnoteを中心としたWebサービスのほうがおもしろい。才能の卵がゴロゴロありますから。
鳴海さん:noteのクリエイターはみなさん打率が高いように感じます。SNSを見ていると、「あ、またnoteのあの人だ」という場面が増えてきている気がしますね。
荒木さん:あと、ひととのつながりも大事ですね。先ほど鳴海さんが話した方程式が確立されていないのであれば、なおさら。企画の持ち込み先のパイが多いに越したことはありません。
鳴海さん:結局ぼくらだけではクリエイターをサクセスに導くことはできないんですよね。外部で表彰されたり、本をつくってもらったりするためにはいろいろな関係者を巻き込まなければいけない。特に入社まもない時期は“関係者思いつき力”や“関係者に即LINEできる力”は割と大事ですね。「あのひと巻き込んでこれをやろう」と考えれば企画も思いつきやすくなりますし。
——最後に、お二人が考えるnoteのよさとは?
鳴海さん:noteのよさはプロダクトの機能というよりも、創作の楽しさを伝えるためにプロダクトがある点だと思います。ミッションやビジョンが先にあるからこそ、誰もnoteを真似できない。
荒木さん:完全に同意ですね。「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」というミッションが、自分にマッチしています。
鳴海さん:ですよね。ぼくもあの一行がなければ応募していなかったと思います。創作を始めること、続けることは大変です。でも、続ける方が人生は楽しいし、創作を通じてできた仲間はきっとかけがえのない存在になるはず。誰もが潜在的に思っているけど言葉にしづらい考えをミッションに掲げ、発信している。それこそが、noteのよさだと思います。
Text and Photo by 田中嘉人
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