クリエイターの影響力を最大化する。サービス思想を体現する「noteディレクター」とは?
「noteというシステムは、編集的な生態系。そのなかの人間にしかできない部分を手がけるのが、noteディレクターです」と語るのは、noteのCEO 加藤さん。
2020年の上半期で、note発の書籍は20冊以上出版。過去をさかのぼると映像化された作品もあり、クリエイターのキャリアに大きな影響をもたらしています。
noteのミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」。プロの作家だけではありません。noteにとって「クリエイター」とはプロ・アマ、個人・法人は問わず、「なにかを生み出すひと、すべて」を指します。日常から一歩踏み出して、生活を楽しくしようとするクリエイターたちが、自分の伝えたいことに専念できる世の中を目指し、日々活動しています。
noteのミッションを体現するためのポジションが、noteディレクター。社内で1人目のnoteディレクター・三原さんは「クリエイターの影響力を最大化するためなら、なんでもやる」と話します。それだけ聞くと、出版業界の編集者のようにも聞こえます。では、実態はどうなのでしょうか。
今回の #noteのみんな では、三原さん、同じくnoteディレクターの平野さん、そしてCEOの加藤さんにこのポジションが生まれたきっかけ、どんな役割なのかを語ってもらいました。編集者とも、ウェブディレクターとも異なる「noteディレクター」の仕事内容とは?
編集者でも、ウェブディレクターでもない。「noteディレクター」という仕事
ーまず、noteディレクターの仕事内容から教えてください。
三原:「企画編集」と「仕組み化」に大きく分けられます。
わたしが主に担当している「企画編集」とは、クリエイターがnoteでの表現活動をきっかけに次のステップに進むためのサポートのこと。具体的には目的に合った活用ができるように個別相談にのったり、イベントの企画運営や、作品が書籍化・映像化されるように出版社やテレビ局などのメディアと連携することもあります。
わたしは100名以上のクリエイターと関わりを持っているんですが、note自体の規模や機能がすごいスピードで拡大・拡充しているため、フェーズに合わせたサポートをしていかなければいけない。そこで必要になったのが平野さんが中心になって担当している「仕組み化」です。
三原琴実
noteディレクター。ウェブディレクターとして多数のウェブサイトの構築・運用、企業のデジタルマーケティング支援を行った後、クラウドファンディングサービスの立ち上げに参加。開発ディレクションや企画の起案サポートを行なう。2014年より現職。
平野:「仕組み化」は、noteに新しい機能ができたら使い方をクリエイターの方たちにわかりやすく伝えたり、ときには勉強会を企画したり。ウェブに詳しくない、もしくはnoteを初めて使うクリエイターがスムーズに使えるようにマニュアルを整備しています。
いままではやりたいことがあるクリエイターがnoteを始める傾向がありましたが、最近は話題になっているから始めてくださるひとも増えてきています。だから、フラッと来てもやるべきことがイメージできるものをまとめておくべきと感じ、取り組みはじめました。
平野太一
2018年10月よりnoteディレクターとして入社。クリエイターのサポートだけでなく、イベント企画準備、クリエイターガイドの作成、クリエイター取材撮影など、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」環境をつくるために活動。
三原:noteディレクターがクリエイターを個別に直接支援する体制には限界があります。平野さんが担当している「仕組み化」と平行して、直感的に使い方がわかるようなユーザーインターフェースになるよう、開発サイドとの連携も強化しています。
ーちなみに「クリエイターを個別に支援する」とは、具体的にはどういうことをしているのでしょう?
三原:わかりやすい例は、書籍化・映像化のお手伝いです。ただ、最終的に出版社やテレビ局、映画会社が手がけるため、“書籍化・映像化以前の編集”というイメージです。
平野:最近だと、ぼくは自炊料理家・山口祐加さんの書籍が出版されるまでをお手伝いしました。料理ができるようになりたいと山口さんに相談したところ、「料理ができるようになるまでの過程をコンテンツ化したらどうか」と提案してもらい、noteで共同運営マガジンをつくり連載をはじめました。おなじ悩みを抱えている方も多かったようで、1年ほど経った頃に書籍化が決まりました。その書籍では、あとがきだけでなく、すべての料理写真も撮影させてもらいました。
※出版記念イベントは、平野さんがモデレーターとなってオンラインで開催されました。
加藤:こういったケースはすこし特殊かもしれませんが、クリエイターに寄り添って一緒につくることもあります。
「創作」をクリエイターひとりでやり抜くことは難しい
ーそもそも、なぜ「noteディレクター」というポジションが生まれたんですか?
加藤:ぼくがもともと編集者だった経験上、「創作」をひとりだけでやることは、すごく難しいものだと思っています。創作の過程に複数人が関わることで、大きな作品を生み出せる。だから、クリエイターに対して、note側が「編集的なサポートをしない」という選択肢はありませんでした。
ー「編集的なサポート」とはどういう行為を指すのでしょうか?
加藤:そもそも「編集」には、「依頼をする」「創作を助ける」「届ける手伝いをする」といった役割があります。それを踏まえて、noteのクリエイターに対する「編集的なサポート」には3つの方法がある。
ひとつ目は、わたしたちが直接サポートする方法。マンツーマンだったり、勉強会を開催したり……マニュアルや活用事例の提示などテキストコミュニケーションもそうですね。
ーnoteディレクターの「企画編集」と「仕組み化」ですね。
加藤:ふたつ目は、noteというクリエイティブコミュニティのなかでクリエイター同士がサポートしあう方法。クリエイターが記事の読者から感想をもらったり、スキのボタンでリアクションをもらったり、「次はこんな話を書いてほしい」と言われたらそれも「編集」のひとつではないでしょうか。
たとえば「不思議の国のアリス」という作品は、作者のルイス・キャロルが近所に住む女の子を喜ばせるために書いた物語だと言われています。つまり、その子がいなかったら「不思議の国のアリス」は生まれていない。いわゆる編集者に限らず、だれかがクリエイターに関わることで作品が生まれることは非常に普遍的なことだといえますよね。
だから、noteは好意を伝え合うことを「かっこいい」と感じられる空間づくり、機能設計をしています。フォローやスキといった機能は、編集そのものなんです。
ー読者もクリエイターの創作を助ける存在なんですね。
加藤:みっつ目は、お題を出すという方法。それは「こういうテーマで書いてね」という依頼でもあります。じつは「依頼」は編集において一番大事な行為のひとつなんですよね。クリエイター本人が思いつかないようなテーマを提案して「なるほど、それを書いたらおもしろいのか」とあらたな創作が始まる。
現実にはすべてのクリエイターへ個別に依頼をするのは難しいので、「お題」を通じてみなさんの創作意欲を刺激できるようにしています。さらに同じお題で書いたクリエイター同士が仲良くなって、横のつながりが生まれることもあります。
※noteで常に実施されている、さまざまなお題企画
加藤:つまり、noteというシステム自体が編集的な生態系なんですよ。そのなかの人間じゃないとできないような、クリエイティブなコミュニティそのものを支援する動きをnoteディレクターが受け持っています。
noteにおける「企画力」の定義
ーnoteディレクターの仕事のおもしろさってどんなところですか?
三原:自分たちが関わったことで、クリエイターが次のステップに進んだり、一歩でも目標に近づけたりしたときが一番嬉しいですね。noteを取り巻く環境が日々大きく変化しているので大変なこともありますが、クリエイターファーストの企画を立て続けられるよう心がけています。
ークリエイターファーストの企画を立てるためにはどうすればいいんですか?
加藤:noteディレクターにとって「企画力」はすごくたいせつな能力です。企画力がないと、クリエイターのパワーにぶら下がってお世話するだけのひとになってしまうので。
noteディレクターの仕事はすごく多岐にわたり、KPIも「売上」とかではなく「クリエイターの影響力を高めること」なんです。だから、クリエイターに応じていろんな切り口で提案できる「企画力」が重要。やりたい企画がいつでも頭のなかに何十個もあるようなひとに向いている仕事ですね。
ーnoteディレクターの仕事において「企画力」が必要とされる場面はどんなときですか?
三原:わたしは「企画力」とは、考え抜く力だと思っています。たとえば、noteが企業スポンサーと実施する「コンテスト」の企画運営も担当している仕事の1つです。コンテストは企業のニーズももちろんありますが、noteにとってはクリエイターへ依頼をだして才能を発掘する意味合いも強いですし、積極的に投稿を募るからnoteの空気感を左右させるものでもあります。
加藤:noteのコンテストは、本当に難しいんですよね。それぞれに目的があるからこそ、利害がぶつかることもあります。
かといって、「noteの理念に合わないコンテストはやりません」とすぐに断ってしまうのも違うし、クライアントの提案だけにしたがってクリエイターファーストの企画ができなくなってしまうのも意味がない。このふたつを両立させる切り口を見出す能力こそが企画力であり、クリエイティビティなんですよ。
※過去のコンテストでの審査会の様子。担当するnoteディレクター、スポンサー企業、審査員で実施する。
ー三原さんと平野さんは企画力を発揮するためにどんなことを意識していますか?
三原:自分の意見をきちんと言葉にするように心がけています。偉いひとが相手でもクリエイターのためにならないと思ったら忖度しないし、わからないことはわからないと言ったり……利害関係ある相手に迎合するようなことはしないですね。
クリエイターやnote、そして自分にとっていい企画をやりたいという気持ちは常に持ち続けています。
加藤:企画に携わるときの姿勢として、すべて必要なことですね。つい偉いひとが発案した企画に流されてしまいがちなんですが、ピンとこなかったら、ちゃんと伝えるべきです。「いいものをつくる」ことがゴールなので。
平野:あと、三原さんは組み合わせる力にも長けていますよね。いろいろ点在しているアイデアをつなげて、みんながハッピーになる企画をすぐに提案してくれる。
三原:いろんなクリエイターの方たちと会話して、彼ら・彼女らにとってのやりたいことは常にストックしているつもりです。その積み重ねかもしれませんね。
平野:ぼくの場合は、note、世の中の動向、そして自分の得意分野が重なるところを見つける意識。これは加藤さんに教わったことです。
今はそれが「仕組み化」の仕事にもつながっています。もともとnoteディレクターの役割ではなかったんですが、noteのフェーズの変化とともに必要になった領域が自分の強みを活かせてクリエイターのためにもなる分野でした。
加藤:さっきの三原さんの話にもありましたが、自分とクライアントとnoteの3つが重なるポイントを見つけることが編集そのものなんですよ。どれか1つじゃだめなんです。
「noteディレクター」として活躍するための条件
ー三原さんと平野さんは、ご自身がnoteディレクターとして活躍できている要因はなんだと思いますか?
平野:うーん……自分でいうのも変ですが、「素直さ」かもしれません。尊敬するひとが周りにたくさんいるので、いろいろ言われても反発していたら成長できない、吸収しないともったいないと思うんです。「クリエイターのためになにができるか」という気持ちを忘れず、話題の記事をたくさん読んだり、フィードバックをもらった内容を整理したりして、自分のnoteやnote編集部の活用事例で紹介するようにしています。
加藤:平野さんは、note入社前からクリエイターにすごく詳しくて。面接でも「これまで読んだおもしろいnoteの記事のリスト」を見せてもらいました。noteへの理解が深く、仕事がていねい。それも平野さんが活躍している理由だと思いますね。
三原:わたしの場合は、なんだろう……たくさんの場数を踏めるように心がけているかもしれません。
入社して、加藤さんから企画や編集について学んで、成長著しいnoteの中でその時その時でベストなことをやろうと考えて。
最近はクリエイターや企業からの相談数もすごく増えているんですが、必ず一度はなにかできないか考えるようにしています。「考えぬけばいいところに着地する」と前向きに捉えられているのは、やはり場数を経験しているからだと思いますね。
※イベントでモデレーターを務める、三原さん。
加藤:三原さんは、社内で一番クリエイターに詳しいと思いますよ。単純に名前を知っているだけではなく、クリエイターの方たちの人柄も理解している。自分でクリエイターのnoteもたくさん購入しているよね。
三原:noteの社員はわたしに限らず、購入したりサポートしているひとが多いですよね(笑)。なにかをつくり発表し、しかもそれを続けられることは本当にすごいことだと思っているので、クリエイターに対してのリスペクトはいつも抱いていて。だから、並走していけるんだと思います。
加藤:そして、フットワークも軽いから、なにか頼むとすぐにやってくれるし。必然的に場数も増えていきますよね。
ーでは、最後に加藤さんが今後入社するnoteディレクターに期待していることを教えてください。
加藤:入社にあたり持っておいてほしいものはふたつあります。
ひとつはマインド。人気のクリエイターとやり取りする仕事なので、華やかなイメージに憧れて応募される方も多いです。でも、憧れの気持ちだけでなく、大事なのはクリエイターファーストで考えること。そこににやりがい、おもしろさを見出せることが大事ですね。もちろん最終的なゴールは、クリエイターの先にある社会やファンなんですが、仕事ぶりとしては目の前にいるクリエイターに集中してほしいと思います。
もうひとつは、先ほども触れましたが企画力です。クリエイターとnoteや自分と世の中をうまく結びつける力が備わっていたらベストですが、まずはやりたいことがたくさんあるひとに来てほしいですね。
いろんなアイデアのタネを持っているひとなら、クリエイターとの出会いで一気に花ひらく可能性を秘めている。やりたいことがありすぎるくらいのひとにnoteを選んでもらえたらとても嬉しいです。
ーまさにnoteというサービスを擬人化したかのような三原さんと平野さん。おふたりのようなnoteディレクターであれば、クリエイターが頼りたくなるのもすごく納得できました。ありがとうございました!
Text and Photo by 田中嘉人
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