法人は、人であり、クリエイター。あたらしい時代の情報戦略の可能性を探る。#これからの企業の情報発信
新型コロナウィルスの流行以降、企業とユーザーのコミュニケーションのあり方が大きな分岐点を迎えています。これまでの広告やプレスリリース、自社サイトのありかたは正解なのか、SNSやオウンドメディアとは、どのように付き合っていけばいいのか——?
note社では、2020年7月3日にnote placeで開催された博報堂×note共催トークイベント「あたらしい時代、企業・ブランドに求められる情報戦略」をライブ配信。株式会社 博報堂/株式会社SIX クリエイティブ・ストラテジストの藤平達之氏、 note株式会社代表取締役CEO加藤貞顕、同CXO深津貴之が、これからさまざまな課題に直面するであろう企業の宣伝・広告担当者に向けて、いまの課題や、noteで生まれつつある事例に触れながら、今後の情報発信のあり方について語り合いました。
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登壇者紹介
藤平 達之(とうへい たつゆき)
株式会社 博報堂/株式会社SIX クリエイティブ・ストラテジスト
2013年博報堂入社。クリエイティブブティック・SIXにも所属。マーケティング・クリエイティブ・プロデュースの各領域を経験。ブランドの志と生活者の価値観を組み合わせて強いコアアイデアを作り、ストラテジーとクリエイティブを一気通貫させるプランニングが好き。「勇敢で意義のあるブランド」を増やすことが目標。
加藤 貞顕(かとう さだあき)
note株式会社 代表取締役CEO
アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト cakes(ケイクス)をリリース。2014年、メディアプラットフォーム note(ノート)をリリース。
note:https://note.com/sadaaki
Twitter : @sadaaki
深津 貴之(ふかつ たかゆき)
note株式会社CXO
インタラクション・デザイナー。株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。noteのCXOなどを務める。執筆、講演などでも精力的に活動。
note:https://note.com/fladdict
Twitter:@fladdict
<モデレータ>
高越 温子(たかこし あつこ)
note株式会社事業開発
2015年に株式会社リクルートキャリアへ入社。人材紹介営業、新サービスの立ち上げに従事した後、フリーランスとして独立。2020年3月にnote株式会社へ入社し、法人向け情報発信プラットフォーム「note pro」を中心とした事業開発に取り組む。
note:https://note.com/atusko0713
Twitter:@atsuko_tkks
「意義がある」「勇気がある」がこれからのキーワード
藤平 ウィズコロナの時代、企業やブランドのたたずまいや動き方が、とても難しくなっています。これまでは、ヒット商品や美しい映像のCM、ユニークなサービスなどで企業やブランドは評価されてきました。
しかし、これからの時代に企業やブランドに求められるのは、「meaningful(意義がある)」や「brave(勇気がある)」という形容詞ではないかと思います。困難な時代に意義のある活動をしていたり、踏み込みにくいテーマや、常識を破るチャレンジをしている企業やブランドが褒められることが理想ではないかと。つまり、企業の志や行動力がはっきりと見える情報発信が必要だということです。弊社の調査で、コロナ前後で、生活者の企業に対する意識が変化しているとの結果が出たので、大きくふたつの視点からご紹介します。
まずひとつめ。緊急事態宣言が出ている期間中、「応援したい企業」ができた/増えたという方が52%。「嫌いになった企業」ができた/増えたという方が30%いました。期間中、各社いろいろな取り組みをしていたと思いますけれども、意外にもシビアに見られ、ジャッジされていることがわかります。このデータからは、難しい状況、あたらしい時代においては、言うだけではなく行動することが、企業やブランドに対する期待ではないかと読み取れます。
それを裏付けるのが、この難しい状況下において「具体的な行動・アクション」に投資してほしい、という設問に80%ものスコアがついたこと。言葉だけではなく、実際の行動を企業やブランドに求めていることがわかります。
ふたつめ。緊急事態宣言解除後に、企業やブランドに何を期待するかという設問で、実に85%の人が「その企業にしかできないこと」をしてほしいという結果となりました。この数字は、その企業らしさをもっと大事にしてくださいという、ある種、生活者からの応援のこもったメッセージとも受け取れます。
これに付随して、地球規模のサスティナビリティも大事だけれども、「ふつうの人の毎日」が楽しく幸せになる取り組みをしてほしいと言う回答が87%。志のある生産者からものを買う「マッチング型EC」を使いたいという設問には49%が「はい」と回答しています。価格の安いローエンド商品への期待も高まっていますが、それ以上に、生産者の志に出会って買いたい、というニーズがあることも汲み取れます。
存在意義を、アクションにつなげられるか
藤平 これらのデータから導き出されることは、企業やブランド、そしてぼくたちエージェンシーも、マーケティングにおいては長らく「差別化」を追求してきたけれど、これからは、「独自性」がより大事になってくるということ。そして広い意味のソーシャルグッドよりも、ひとりひとりの価値観や生活にコミットすることです。
メッセージだけではなく、どうやってアクションをつくっていくか。これが、これからの企業に求められていることであり、それを踏まえた上で情報発信をしていくことが必要だと思います。キーワードっぽくすると、ナンバーワンを目指して山頂を目指すのではなく、独自のポジションをとる「オンリーワン型」を追求していくということ。
つまり、あたらしい時代の情報発信の大きなテーマは、企業やブランドが自分たちの「存在意義」をスパッと答えられるか、それがアクションとなって世の中に届けられているか、ということではないでしょうか。
テレビCMを打つ、リリースを発信する、オウンドメディアを使い、ソーシャルメディアで広げていく。これらは完成された生活者に対するアプローチですが、果たしてこれで正解なのでしょうか? ぼくは、いまこのタイミングが正念場だと感じます。これからもずっとリスペクトされる企業やブランドになるための情報戦略の答えを、このディスカッションで見つけられればと思います。
誰かにとっての「あたりまえ」はコンテンツになる
加藤 ぼくは普段、個人のクリエイターには「メッセージを発信し、コミュニティを作り、そこに対してクリエイトしたものを発表しましょう」とおすすめしていますが、それが今のお話と似ているのが印象的です。企業もクリエイターとしてふるまう必要が出てきたと感じました。
深津 「法人」といって、昔から企業を「人」にたとえることがありましたが、ほとんどの人がSNSをやる時代になって、法人が法律上のたとえだけでなく、本当に人として扱われ、コミュニケーションを持たれるようになったと感じています。
なので、とおり一辺倒のプレスリリースでは刺さらないし、内容によっては炎上する場合もある。Twitter上では、友達付き合いのようなフランクなコミュニケーションをする企業も出てきました。企業も主体的なコミュニケーション、つまり一方通行ではなく生活者とキャッチボールしなければならない時代に変わってきましたね。この企業は、こういうキャラ設定、ということが求められているというか。
藤平 企業やブランドもクリエイターだと考えると、その企業の個性が明解になり、やるべきことがはっきりしますね。
高越 企業がすぐに生活者とコミュニケーションのキャッチボールをするのは難しいかもしれませんが、企業が生活者へメッセージを伝える方法のひとつとして、社内の様子をそのまま社外に伝える「オープン社内報」があります。
たとえばSmartHRさんは、その最たる事例です。「オープン社内報」と題して、内容は社内の人に向けたメッセージとして書かれており、すごくうまい使い方だなと思います。
深津 SmartHRにならって、私もnote社のオープン社内報第1号でもある「みんな、いまこそメッセージを」という記事を書きました。企業が「人」であるならば、困難な時期にすみっこで黙って様子を見ているのは、企業の態度とは違うと思うんです。この記事は、こういうときだからこそ企業は表に出て、社内の人には「大丈夫だよ」「こっちに行こう」と言うべきだし、社外の人には「こうすれば、こんな環境下でも安心できますよ」と発信すべきだという内容です。
この記事で、あなたの会社でも社内外にメッセージを送ってみませんか、と提案したら、結構、企業のみなさんが乗ってくれて、いまではオープン社内報は結構増えました。オープンにすることは生活者に対して胸襟を開いて受け入れる態度ですし、それは、この困難な時代にこそ必要な企業の在り方ではないでしょうか。生活者もそういう態度の企業を受け入れてくれると思います。
藤平 それに社内の「あたりまえ」は、社外の人にはコンテンツになります。コロナ禍のいま、ぼくたちは運送業の方々にとてもお世話になっていて、彼らは身近な存在になっていますよね。ぼくは単純に、彼らがバックヤードで何をしていて、荷物がどのように運ばれるのか、その全フローを見たい。そのことが8回連載で記事になっていたら、読んじゃいますね。
深津 自分たちにとっては普通のことが、外から見たらめちゃくちゃ面白いエピソードの集積体だったりします。
やっぱり、どんな業界でも、内側から見た世界をそのままぶつけていただくとか、業界の事情、課題とか、それらが学びのあるコンテンツになるんじゃないかな。
加藤 企業のみなさんは、オウンドメディアには、何かすごくいいことを書かないといけないと思われているかもしれませんが、そんなことはないんです。みなさんが日々行なっている企業活動は、どんな業界であれ、それぞれ工夫してやっているわけですよね。どこがこだわりで、どこが好きかということを、ふつうに書いてもらうことに、すごく価値があります。
先日、下北沢でお寿司屋さんをやっている73歳の方が、こんな考えでお寿司を握っているんですよ、ということをnoteに書いたらネットでとても反響があったんですね。それっておもしろいなと。多分、彼は普段から考え実践していることを書いただけ。それを素直に書いているから、読んだ人の心に届いた。
この事例のように、誰かの「あたりまえ」は、誰かにとってはコンテンツですし、そういう意味では、企業のみなさんはすでにクリエイターなんです。企業のみなさんが表現する場としてnoteを利用していただければと思っています。
「ひとつ上のレイヤー」でコンセプトをつくる
高越 ここから、 noteの中で生まれた情報発信の例をいくつか紹介させてください。
まずは、キリンビールさん。 noteではハッシュタグを使った投稿コンテストで、エッセイや漫画などの作品の投稿をnoteクリエイターから募ることができるのですが、キリンビールさんが最初に行なったコンテストのテーマは「#社会人1年目の私へ」。たくさんの作品をお寄せいただきました。「#あの夏に乾杯」というコンテストを実施されていたこともあります。
なぜこのようなコンテストを企画されているかというと、キリンビールさんは公式noteを「これからの乾杯を考える場」と定義しているからなんです。キリンビールさんにはnoteをファンやクリエイターと一緒に、コミュニケーションをとりながら掲げたテーマについて一緒に考える場としてご活用いただいています。
深津 noteではできる限り、コンテストを企業プロモーションや販促のためと受け取られないようにしています。それにnoteはもともと、企業とその企業のファンや将来ファンになってくれそうな人と、一緒に何をしようかと話し合う場所、みたいなところがありますね。
たとえばこの場合、一般的な広告商品なら「キリンビールを飲んで」みたいなハッシュタグを付けますよね。でもnoteと一緒にコンテストを開催してくださる企業の方々は、自社の商品だけではなく、キリンビールさんのように「ビールを飲むのは楽しいよね、みんなも一緒にビールを飲もうよ」みたいなノリとテーマの広がりがあって、業界全体を盛り上げていこうというスタイルを大事にしています。
高越 次は、投資信託「ひふみ」を運用するレオス・キャピタルワークスさんの事例です。レオスさんの投稿コンテストのテーマは「#ゆたかさって何だろう」。
このコンテストはひふみブランドの全面リニューアルに合わせて実施されたのですが、そこで届けたい新コンセプトが「次のゆたかさの、まんなかへ」だったんですね。一方的にコンセプトを発表するのではなく、周りの方々にも「ゆたかさって何だろう」と改めて考えていただきたいということで、コンテストを開催していらっしゃいました。
深津 これはブランディングメッセージのコアの部分がミッションになっていますね。自分の会社のアイデンティティレベルの話を、みんなと一緒に考えようという。企業として、ものすごく腹を割った話し方をしています。
藤平 マーケティングでは生活者と企業が一緒に何かをつくり上げることを「共創」、同じ事象で一緒に盛り上がることを「共振」と表現していますが、この例はまさに共創と共振ですね。
ぼくらもブランドクリエイティブをつくるときに、「ユーザーが参加できる余白をつくる」ことを意識しますが、このケースは真ん中が空いている。会社のコアとなる一番ポイントとなるところを一緒につくろうというスタンスが勇気があってかっこいいし、ハッシュタグもいい。
深津 お金の話がきてもいい、人生の話がきてもいい。君なりの豊かさを教えてよ、というところから会話ができるところが素晴らしいです。
高越 ほかにも、LINE MUSICさんは「#いまから推しのアーティストを語らせて」というコンテストを開催し、普段なかなか自分の「推し」について語る機会のないファンでも乗っかりやすいテーマでたくさんの投稿をいただきました。
クラウド会計サービスfreeeさんの「#はたらくを自由に」をテーマにしたコンテストも盛り上がりましたね。実は私、note社に入る前にこのコンテストに投稿しているんですよ。すごく面白いなぁと思って見ていた事例です。
藤平 いろいろな事例をみてわかったのですが、noteのコンテスト企画は、ひとつ上のレイヤーでコンセプトでつくっているんですね。企業名や商品名など狭い範囲のテーマではなく、働くこと、豊かさ、推しのアーティストなど幅広くテーマを設定している。それが求心力となり、ファンとの共創や共振につながっています。参加したくなるハッシュタグもいい。
深津 そのブランドのある世界で、楽しい生活とか、生き方についてお互いに意見交換する感じがいいのかなと。
加藤 ハッシュタグはとても重要なんです。企業の担当者さんとは、かなりやり取りさせていただいて決めています。
「共創」はこれから、もっとカジュアルになる
高越 先ほど共創というキーワードが出ました。たとえば、共創のひとつとして、noteのクリエイターにアイデアを募集するとしたら、どんなテーマがありますか?
藤平 noteのコンテスト事例のように、ひとつ上のレイヤーで、企業やマーケターとクリエイターがコミュニケーションを取りながら情報発信をすることがひとつの理想です。それができるテーマがいいですね。
加藤 体験談的な話はたくさん出てくると思うんですよ。たとえば食品やコンビニ、化粧品、それから自動車をテーマにしてみるとか。
深津 私、山奥での免許合宿だったんですけれども、狭い道路の向かいからトラックが来て、教官に「寄せろ」とか言われて泣きながら運転していました。
藤平 免許講習で高速道路に乗るときは本当に怖いです……。
高越 家族で車に乗ってよく出かけていたので、車というと家族との思い出が想起されて懐かしくなります。人によって思い出すエピソードもまったく違いそうですよね。
加藤 こんな風にたくさんの思い出話が出てくるということは、自動車はいいテーマなんです。YouTubeでも整備や改造のコンテンツがたくさんあって、いろんな角度で話が広がるネタなんですよね。家族の自動車エピソードなんて、なんなら映画が一本できそうな感じ。
深津 映画コンテスト、ドラマコンテストができます。15秒CMにあなたの家族のエピソード、とか。
加藤 noteから書籍になったり映像化された作品って、結構あるんですよ。これからは、カジュアルにインターネット上でクリエイターさんと企業の共創が可能になると思います。
「法人」は「人」としてふるまう時代
藤平 冒頭お話させていただいたように、あたらしい時代の情報戦略は、企業がその志や存在意義を、いかにアクションに移せるかが大事になると思います。
今日紹介していただいたnoteのコンテストみたいに、ひとつ上に仲間が集えるコンセプトを置いて、それを起点にクリエイターがさまざまなコンテンツを共創、共振し、マーケターがそれに刺激を受けてあたらしい気づきを得るといういいループが生まれると、日本はもっと幸せになるのかな、と思いました。
そういうことを、博報堂とnoteで一緒にやっていけると嬉しいんですけれども。公開オファーみたくなっちゃいましたが(笑)。
深津 それは素晴らしい。ぜひ!
深津 先にもお話したとおり、いま「法人」が、どんどん「人」に近くなっています。そして企業のコミュニケーションも、顧客と企業というよりは、友だちや仲間に対するもののようになってきました。するとやっぱり、原稿を読み上げたようなコミュニケーションでは友だちになれないんですよね。企業も生活者と同じ土俵におりて、同じように体を動かす必要があると思います。
ではどうすればいいのかというと、「人」としての企業と、ファンやクリエイターが、一緒になって何かをつくり上げていく。メッセージだけではなく、アクションをつくっていく。つまり、共創、共振が大切になってくるのではないでしょうか。
「人」として活動したい企業のみなさん、ぜひぼくらのnoteという街に引っ越してきて、「人」としてコミュニケーションしてみませんか。